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翌日、今までにないほど快く送り出された千秋は、約束通り拓也と映画を見に行った。
「いやあ、やっぱりアクションはいいよな」
「だな。今回のも見応えすごかったし」
うんうんと頷いている拓也は、千秋の前に座っている。
映画は午前で見終わったので、近くの店で昼食をとっているところだ。ひとしきり映画のことを語り合りあうと、自然と話題は拓也の合コン話へ。
「実は休み中、彼女できたんだけどさ」
「え!」
突然の報告に驚く。今まで、何かしらあってそこまで発展できないというのが拓也だったがいつの間に。
「すぐ別れることになってさ……」
「ああ……」
やはりお馴染みの流れだ。とはいえ念願の彼女だったというのに、何があったのだろうか。
「俺が彼女の誕生日知らなくて、祝わなかったらそれでお終いよ」
「え?知らなかったんだろ?」
「まあ、出会ってそんなに経ってないからな」
と、しばし項垂れていた拓也だったが、「またかわいい子を探すまで!」とすぐに復活した。相変わらず下がるのも上がるのも早いやつだ。
拓也はいつもこういうことを話してくれる。それは単に話したいからというのもあるが、対する千秋は英司とのことを言っていない。話した方がいいのかとも思ったが、しかしどうしてもそこまで踏み切れないのだ。
友達の拓也に言いたい気持ちと、躊躇う気持ちどちらもあり、実は少し悩んだ。
しかし、誕生日か。たしかに恋人間では一大イベントだもんな。しかし知らなかっただけなのに、それで振られるなんて…………ん?
……あれ、えっと、誕生日……誕生日!?
「今日何月何日っ!?」
「うおっ、びっくりした。え、えー……八月二十七日?」
まずい。どうして今まで忘れてたんだ。いや、今思い出せただけでもラッキーか。
「おい、どうした?なんか今日やることでもあった?」
「いや、なんでもない。ただの勘違い……」
あははと笑ってごまかす。拓也は不思議そうにしながらも、それ以上気にすることはなかった。
……いやいや、まずい。どうして忘れてたんだ。正確には忘れていたわけではないのだが。
ただ、なんというか祝わない、もとい祝えない数年間が続いたせいで、覚えていながらも祝わないという感覚が身についてしまっていたのだ。
二週間後、九月十日。
その日はまさに、英司の誕生日だ。
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