5. タイミングってやつ

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 その後、買い物に行こうということになり、店で誕生日プレゼントを意識して見たりしたのだが……どうしよう。  柳瀬さんの誕生日を祝うときってどうすればいいんだ?友達とはまた違うよな……?  期間的にはまだ二週間と余裕ありだが、一応恋人である柳瀬さんの誕生日だ。構えてしまうし、どうすれば正解かわからない。  結局何も買えないまま夕方になり、帰路についていると、拓也が「あっ、そうだ」と呟いた。 「ん?」 「一人暮らし始めてしばらくだったけど大丈夫そう?」 「あ、ああ。おかげで何とか」 「隣人トラブルとか色々あったもんな」 「うん……」  そうか。英司を徹底的に回避しようとしていたとき、拓也には隣人トラブルと説明していたのだった。 「まあ、大丈夫そうならよかったわ。何かあったらまたうち来てもいいんだからな」 「ありがとな」  お前のつくる飯うまいしなあ、と言う拓也に、それが狙いかよ、と笑って返す。  そんな会話をしているうちに、いつも拓也と別れるところに着いてしまう。 「じゃあ……あっ、そうだ。次お前の家連れてけよ」 「え?家?」 「ほら、夏休み前、行かせろって言っただろ」 「あ、ああ……」  そういえば、言っていたかもしれない。あのときは英司のことを考えてたから、生返事をした気がする。  拓也は以前、千秋が彼の家に泊まっていたときに英司と顔を合わせたことがある。そして、隣人トラブルを相談した件を考えると、その隣人が英司だとバレるのは大変まずいだろう。  以前、隣人トラブルで困ってると言っていた時期、拓也は「なんかされたら殴り込みに行ってやるぜ」と言っていたのだ。  殴るはないにしても、正義感の強い拓也だ、千秋のために怒ったり何かしたりするかもしれない。  そもそも英司は、千秋があのとき彼を避けるために隣人トラブルと言っていたことを知らない。 「来週は?」  早々に拓也が予定を合わせ始めて、千秋は内心焦る。  それに、ただの隣人トラブルではないことがバレてしまう可能性もある。そしたら、一から説明することになり……。  いや、全て言わないにしても、ややこしいことになるに決まってる。  はあ……。千秋は内心ため息をついた。  拓也に言っていることは完全には嘘ではないが、騙しているというか……そんな感じがして胸がちくりとする。  俺、拓也を大切な友達と思っているのに。あの手この手で色々隠していることに、今更ながら少しモヤモヤした。
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