5. タイミングってやつ

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 拓也と映画を見た週の日曜日、千秋は英司の誕生日をどうするか決めかねていた。  千秋は居酒屋で働いており、バイト中もぐるぐると考えを巡らせている。  予定をそれとなく聞いたところ、誕生日当日は英司も一日オフだそうで、二人で会うことになった。  「俺の予定は全部把握しておきたいの?」と意地悪なニヤニヤ全開でからかわれたが、もちろん否定しておいた。  しかし、プレゼント渡して、ご飯食べて、ケーキ買って……。それだけでは友達と変わらないのでは、とか。そもそも恋人の誕生日ってどう祝うんだっけ、とか。  千秋の脳内でさまざまな疑問が飛び交う。  実は中学のときは、短い交際期間に英司の誕生日が被らなかったのだ。  千秋の誕生日は十二月で、受験勉強が忙しい中、回転寿司に連れて行ってもらったというエピソードがあるが。  部活メンバーみんなで祝うとかはあったけど、要は恋人として祝ったことはないのだ。 「千秋〜!」 「あ、はい。今行きます!」  途中、常連客に呼ばれながらも千秋の思考は止まらない。  今まで付き合った人たちにはどうしていたか。全て女性だったが、もちろん誕生日はちゃんと祝ってきた。少しおしゃれな店に行ったり、プレゼントを渡したり。  とはいえ、英司をそういう風にエスコートする自分は想像できないというか。本当にそれを望んでいるのか?と少し違和感がある。  とはいえ、「何かしてほしいことありますか?」と聞くのもアレだし。  でも、中途半端なこともしたくなくて。  ……柳瀬さんの誕生日祝えるの、ちょっと嬉しいし。  ……よし、わからないことを考え続けても仕方がない。  こうなったら、自分の得意分野で攻めよう。  自分の今できる精一杯で、英司を祝い尽くしてやろうじゃないか。  そして、めちゃくちゃ喜ばせてやる。  思い浮かんだ案に内心たらりと汗が伝ったが、千秋は強気に不敵な笑みを浮かべた。
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