5. タイミングってやつ

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 拓也の家に着くと、とりあえずと風呂に押し込まれた。  どうしよう。呆れられた。嫌われたかもしれない。  拓也に引っ張られながら家に着くまで、千秋の頭の中はそれでいっぱいだった。  ……あと一週間で、柳瀬さんの誕生日なのに。こんなことになるなんて。今回のことは、全て自分が招いたことだと当然としてわかっていた。わかっているからこそ、どうすればいいのかわからなかった。謝りたいのに、誤解を解きたいのに、それすら拒絶されるほど怒らせてしまったのだ。  しかし、シャワーを頭から浴びていると、だんだんと落ち着いてくる。  ……ショックを受けてるだけじゃだめだ。ここで、終わらせたくないから。  上がったらすぐ電話しよう。それで、少しでも話をしたい。できなくても、話したいという意思だけでも見せなければ。 「拓也、風呂ありがとう」  すぐに風呂から上がると、拓也が風呂に入っている間に電話をかけてみる。  なかなか出ない。呼び出し音が鳴り続けるだけだ。しばらくして、留守番電話に切り替わってしまった。  その後、何度かけ直しても英司が出ることはなかった。  どうしよう。今まですぐ出てくれてたのに……。 「千秋、大丈夫か?」  いつの間にか風呂を上がったらしい拓也が、真っ青な千秋を心配して声をかけてきた。 「うん、大丈夫……。あ、でも今日いいのか?泊まって」 「俺が連れてきたんだからな。無理やりだけど」 「そんなこと」 「まあ、とりあえず今日は飯食って寝ろ。なんか食う?カップ麺くらいしかないけど」 「……うん、ありがとう」  拓也は優しい。だから、隣人に困っているという千秋を思って、ここまでしてくれた。  だから、本当のことを話さなければいけないのに。どうして最後の一歩が踏み切れない。こんなんだから、俺は今日みたいなことを引き起こすんだ。  結局、その日、拓也は英司のことに触れることは無かった。  そのかわり、少しでもリラックスさせようとしてくれたのか、色んな話をしてくれた。  拓也は優しくて面白い。一緒にいて心地いい。  俺を友達として、とても大事にしてくれる。
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