⒈ 隣人を回避せよ

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 この男のことを簡単に信じるのはどうかと思ったが、ここで嘘をつくメリットはなさそうだ。それに、嘘をついているようには見えない。 「で、本題なんだけど」  いきなり立ち上がった英司。  本題?今のが本題ではなかったのか。  その様子を不思議に思いながら見ていると、英司は何を思ったか、向かい側に座る千秋の方に回ってくる。そして、そのまま横に腰をおろした。 「ちょ……!なんで横、近寄らないでくださいよ」 「なんだよ。俺たち付き合ってただろ」  はあ!? 「それにしてもお前成長したよなぁ。……昔より大人っぽくなった」  当たり前だ、会わなかった期間は五年。たかが五年、されど五年である。成長期、思春期を舐めちゃいけない。  体を寄せた英司は、当然のように千秋の腰に手を回してくる。  な、なんなんだ、この手……。  それに、それは中学の頃の話だ。しかもガキの、付き合っていたと言えるのかもわからないそれは、当の英司のせいで黒歴史と化している。  たとえ柳瀬さんはなんとも思ってなかろうが、俺は……。 「離して、ください」  ずっと拒絶モードの千秋に、英司はいい加減我慢できなくなったようだ、グイと腰を引き寄せて真剣な顔で覗き込んできた。  うっとなってその目から離せなくなる前に、視線をそらす。 「たしかに今は付き合ってないけど、そんな邪険にすることもないだろ」 「……」 「……なあ。俺が卒業した後、なんで連絡つかなくなったんだ」  ……それが本題か。  たしかに、一方的に連絡を絶ったのは千秋の方だ。そして、それから今まで一度も会うことはなかった。  しかし、忘れてはいけない。それも全てはこの目の前の男のせいなのである。
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