5. タイミングってやつ

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 結局、拓也の家に泊まること約三日、月曜日になるまで状況は変わらなかった。今週金曜日は英司の誕生日だ。  拓也は今日、夕方までバイトらしい。千秋はと言うと、家でソファに腰掛けながら、携帯の画面をただ見ていた。  英司にも連絡し続けているが、返信はない。  電話がつながらないので、メッセージで何度も謝った。隣人トラブルのことも、全て説明した。どういう経緯でそうなったのか、全て。  でも、もう、千秋と別れるということだろうか。  まだ明るい夕方、絶望的な気分のまま、一人宙を眺める。  しかし、千秋の知る限り、英司は連絡は必ず返す人間だったはずだ。以前、色々と押し付けてくるという同級生に怒っているのにも関わらず、丁寧に返事をしていた。  ここまで連絡が取れないとなると、何かあったのではないかとすら思えてくる。しかし、何かあれば恵理子から連絡が来るはずだ。ないということは、変わりなく生活しているということだろう。  つまり、千秋はその同級生より大変なことをしでかしたということか。  そのとき、真っ暗な画面がぱっとついて、振動し始めた。 「えっ、えっ」  画面には『柳瀬英司』と出ていた。  ずっと待っていただけに、驚いてすぐ取らず慌ててしまう。  うそ、本当に柳瀬さん?  ぐずぐずしていたら切られてしまうかもしれない。千秋は一度深呼吸して、震える手でおそるおそるボタンを押した。 「もしもし」 『……千秋?』  離れていたのはたった三日ほどだというのに、ずいぶん久しぶりに声を聞いた気がした。 「あ、柳瀬さ……」  泣きそうになる。  でも、もしかしたら別れ話かもしれないとも思った。そう思うと、言いたいことはたくさんあるのに、話を切り出せない。
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