5. タイミングってやつ

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『千秋、ごめん。しばらく連絡できなくて』 「え……?」 『携帯を無くして、さっき見つけた。メッセージも見た』 「俺……怒ってると思って」 『……まあ、怒ってたっちゃ怒ってた。だから、ちゃんと携帯探さなかったのもある。それは正直に、ごめん。ただの嫉妬でふてくされて、こんなにお前を追い詰めてたなんて、本当に後悔した……』 「え、嫉妬……って?」  『拓也くんを黙って家に入れたこと』と英司は答えた。 『何もないってわかってるけどな』  英司が本当に怒っていたのは、拓也を家に入れていたことだったのか。それに、ふてくされていたと言っているように、ただ単に拗ねていただけのようだ。  ものすごく悲観的になっていただけに、少し拍子抜けしてしまう。いや、元々悪いのは自分なのだが。英司は英司で、拗ねて千秋に連絡しなかったことを悔やんでいるようだった。 「あの、怒ってたの、それだけなんですか?」 『それ以外に何かあったのか?拓也くんと?』 「いやっ、本当に拓也とはご飯食べて話してただけで。でも、柳瀬さんが嫌がるのわかってたのに、黙って入れてごめんなさい」 『うん、もう怒ってない。……というか、俺の方が、俺の勝手でめちゃくちゃ不安にさせた。本当にごめん』  しばらく謝罪合戦が続いたが、同じタイミングで吹き出してそれは終わった。  次何かあったら話し合いをすると決めて、その話は終わった。 「でも他に……隣人トラブルって言ってたのとか」 『それは俺と再会したばっかりの時のことなんだろ?』 「……はい、それもごめんなさい」 『いや、あの時期のことは、中学の時に勘違いさせた俺が悪いから』  逆に一番気にしていたそのことについては、英司はあまり気にしていないようだった。英司からすれば、あの頃の千秋はそれがむしろ普通だと思っている節がある。  しかし、家に入れることを嫌がるのなら、どうして拓也の家に何日も泊まることは簡単に許したのだろうか。矛盾が生じる。  千秋はてっきり、見放されて、そばにいることを拒否されたのかと思っていた。話の内容的にそうではないらしい。それで千秋はショックを受けていたのだから気になった。  それを聞くか聞かないか考えていたところで、英司がまた話し始める気配が電話越しで伝わる。 『……で、拓也くんに言ったのか?俺たちのこと』 「……え?」  最近考えていたことを読まれていたような質問に、千秋は固まった。
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