5. タイミングってやつ

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 拓也が帰ると、用意された夕食を見るなり顔を輝かせた。 「まじうまそう……。え、うちにこんな材料あった?」 「スーパー行ってきたに決まってるだろ」  笑いながら答えると、拓也がええっと驚いた。なら金を払う、と言い出しそうだったので、千秋は先回りして言う。 「世話になったから、これくらいさせてくれ」 「……おう、ありがとな」  拓也が着替えに行っている間、千秋は先に席について、静かに深呼吸した。  大丈夫だ、言える。不安はあれど、千秋に迷いはない。 「じゃあ、食べよう」  戻ってきた拓也も座って、二人で料理に手をつけ始める。拓也が「うめえ」と満面の笑みを浮かべたので、千秋も純粋に嬉しくなった。  ……よし。 「拓也、言いたいことがある」  千秋は早速切り出すことにして、真剣な表情で拓也をまっすぐ見た。  千秋の様子に何かを察したらしく、拓也は同じく千秋の方に顔を向け、聞く態勢を作った。 「うん、どうした?」  その様子に、いよいよ拓也に秘密にしていたことを告白するのだな、と現実味を感じる。それは、絶対言えない、と今まで思っていたからだ。  千秋は膝の上でぎゅうと拳を握った。 「拓也疲れてるだろうし、ご飯の時にどうかと思うけど……でも、どうしても早く言いたくて」 「全然、大丈夫。言ってみ」 「……うん」  前置きはここまでだ。  そして、千秋もこれ以上ためることなく、 「──実は、俺、柳瀬さんと付き合ってるんだ」  と少し緊張が含んだ声で、でもしっかり言い切った。  ……言った。言えてしまった。  自分が告げたのにも関わらず、なんだか他人事のような気がした。しかし、突如としてやってくる、言えたことに関しての凄まじい安心感、達成感。  それほど、千秋にとって大ごとだったということだ。  でも拓也の顔を見続けることはできなくて、聞いたあと、どんな顔をしているのかわからない。 「……千秋、まじか」  耳に届いた拓也の第一声がどういう意味なのかわからなくて、ひやりとする。  おそるおそる顔を上げると、焦ったような、驚いたような、そんな表情をしていた。千秋が想像していた反応からは全て外れていた。 「嘘だろ、そしたら俺めちゃくちゃ悪いことしたじゃん」 「……ん?」 「だって俺、お前とあの先輩を引き離しただろ、悪役じゃねえか!」  まずそこ?と思わざるを得なかった。それに、それは千秋が言わなかったのが悪いのだ。  兎にも角にも、拓也の反応に拍子抜けしてしまう。 「はあー、たしかに女っ気ないなとは思ってたけど。これで納得したわ」  完全に納得してスッキリ、という態度で拓也はうんうんと頷いた。やっとそこか、と今度は思う。予想していた話の順番が完全にぐちゃぐちゃだ。 「……そうとは知らずにごめんな。先走って、引っ張ってきちまって」  拓也が眉を下げてしょんぼりとした。 「いやっ、本当にそれは俺が悪い。……だから、説明、聞いてくれる?」 「おう、千秋がいいなら」  意を決したような千秋を見て、拓也は優しく言った。  拓也も柳瀬さんも、どうしてこう優しいんだろう。
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