5. タイミングってやつ

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 それから、千秋は中学の頃英司と付き合っていたこと、詳しくは省いたが勘違いで変な別れ方をしたこと、今は誤解も解け付き合っていること。そして、隣人トラブルと言ったのは勘違いしていた時期だということ。  大まかではあるが、柳瀬さんとのことを全て話した。 「じゃあ、いじめられてるとか、何かひどいことされたわけじゃないんだな」 「ごめん、早く全部話せばよかったのに」 「いや、俺がお前だったらそう簡単に言えねえよ」  共感するように拓也が答えた。 「だから、ありがとうな、話してくれて。俺のこと信用してくれたんだな」  そして、照れたように笑顔を見せた。  そんなの、こっちのセリフなのに。嬉しくて、ぶわっと思いが込み上げて、若干涙が滲んだ。 「ありがとう……拓也。よかった、言えて」  思わず心の声が漏れた。 「悩んでたんだな。でも、俺も聞けてよかったよ。千秋のこと色々知れたし。マブダチ度上がったんじゃん?」 「ふっ、マブダチって古くないか?」 「うるせえ、いいんだよ」  ワハハと拓也が機嫌良さげに笑い声を上げた。  拓也は、これからも大事な友達でいてくれるらしい。それどころか、拓也の言っていたように『マブダチ度』が上がったような気がして、むず痒いけど嬉しくなった。  こんなに簡単だったのか、とまでは思わないけれど、結果として何も心配することはなかったのだ。  だから、拓也を、英司を、信じてよかった。  千秋は心底そう思って、今一度、胸をほっと撫で下ろした。  拓也と英司、中途半端だったのが、どちらにも向き合うことができたから。
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