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いつもなら、英司がきついくらいぎゅうぎゅう抱きしめてくるくせに、こんなときを狙って、この人は。
「あ、本当に来た」
なのに、なんで大人しくこの人の腕の中に収まりに行ってるんだ、俺は。でも、もう今日に限ってはこのモードの自分を諦めるしかなかった。
抱きしめたまま、二人はベッドにぽすんと寝っ転がった。
「拓也くんに言えたんだ?」
「ん……」
「ならよかった」
柳瀬さんのおかげで、と付け加えようと思ったが、よしよしと頭を撫でられると、全身がぽんと熱くなってきた。
一度は柳瀬さんに見放されたと思っていたが、その後そうではないとわかっても、すぐに会うことはできなかった。そして、寂しい、会いたい、という思いだけが高まっていた上、久しぶりにこんなにくっついたのだ。
この熱が何なのかは明確だった。
「柳瀬さん、本当にもう、怒ってない?」
「そう言っただろ。もう何も気にしなくていい」
「ん、なら……」
千秋はそれを聞いて安心すると、もじ、と身じろぎした。
「どうした?」
とにかくまず、キスして欲しい。素直にそう言える性格だったならば、どれほどよかっただろうか。
でもじっともしていられなくて、きゅっと英司の服を掴むと、ぱっと顔を上げて、英司の顔に近づけた。
「柳瀬さん……」
至近距離で見つめ合うも、英司は「ん?」と穏やかな表情で頭を撫でてくるだけだ。ここまで近づけば、柳瀬さんからしてくると思ったのに、期待は外れてしまった。
行き場を失って、でも離れたくないから、とりあえず首に抱きつく。
「今日の千秋は甘えん坊だな?」
くつくつと笑う振動が直に伝わってきて、千秋は一度、抱きつく力を強めた。
もう我慢できない。もっと、くっつきたいのに。
千秋は腕を少し緩めると、何を思ったのか、ちゅっと英司の頬に軽くキスをした。
「えっ、千秋……!?」
やってしまった後、当然の流れのように、千秋の顔は真っ赤っかだ。
顔を見られたくなくて、再度首に強く抱きつく。
「ちょっと待て千秋、こっち向けって」
「や、やだ」
英司は嫌がる千秋をなんとか引き剥がそうとするが、なかなかできない。
結局、落ち着いたところで、千秋自ら離れてやった。このまま今日は終わり、となるかもしれないと思ったからだ。
「お前、どんだけ可愛いんだよ。キスしたかった?」
「別に……」
なぜか若干キレ気味の英司。でもその実は喜んでいる。頬にキスするだけで?と思ったところで、また恥ずかしくなってきた。
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