5. タイミングってやつ

24/28
前へ
/152ページ
次へ
「キスしたい?」  二人で横になって向かい合いながら、英司が再度聞いてきた。これに答えないと、この先はない、とでも言いたげだ。 「なんで……」 「いいから、言ってみろよ」  言わせたいだけに決まっている。  でも、改めて英司と別れるなんてことにならなくてよかった、とふと思った。それに、彼のおかげで拓也に言う踏ん切りもついたのだ。  柳瀬さんは、俺のこといつも考えてくれてる。そう思うと、またじんわり心が暖かくなって、その人が目の前にいるのだと心臓がとくりと跳ねた。 「……たい」 「なに?」 「だから、したいってば……っ」  そう言ってしまえば、英司は目を丸くさせた。自分で言わせたくせに。  でもすぐに覆い被さってきて、彼の唇が千秋のを貪り始めた。余裕が全くない。それは英司だけではなくて、二人して激しく求めあった。  キスをしていると、苦しいのに英司でいっぱいになるような気がした。  この感覚が好きだ。柳瀬さんのくれる熱が心地いい。柳瀬さんの話す声が好きだ。柳瀬さんの整った顔も好きだ。  ──俺、柳瀬さんが本当に好きだ。  心の中ではあるが、驚くほどさらっと出てきたその言葉。付き合っている以上、当然その気持ちがあったわけだが、今までは素直に思うこともできなかった。  だから、一旦それを言葉にすると、改めて千秋は自覚することになり、ばくばくと心臓がうるさいほどになり始める。 「千秋、すっごいドキドキしてる」  くっついている英司にも伝わってしまったらしく、千秋はキスでぼーっとする頭で、しまったと思った。 「いいから……」 「はいはい」  またキスが続いて、今度はそれだけではなく、英司の手が千秋の体を撫で始めた。 「んぅ……っ」  英司は興奮していて、すっかり男の顔になっている。  千秋はどきりとした。  それに、自分も興奮している。今日は、たくさん英司を感じることができるのだとわかって、思わず千秋は切ない息を漏らした。 「千秋、好きだ」  英司はその夜、たくさんキスをして、たくさん好きと言って千秋を甘やかした。  キスをされるたび、その言葉を囁かれるたび、千秋は満たされて満杯になるのだ。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1328人が本棚に入れています
本棚に追加