5. タイミングってやつ

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 少しおしゃれなカフェで昼ごはんを食べて、映画を見て、色々を店を見て……とそんな具合にデートは進んでいった。  英司はどこに行っても上機嫌そうだったので、本当によかったのかはわからないが、まあよしとしよう。  そして、現在はすでに午後六時。おしゃれなレストランではなく、千秋たちは家に戻ってきていた。  そう。千秋は英司のためにいつもより豪華な食事を振る舞うつもりなのだ。自分の得意分野で攻める、というのはまさにこれのことだった。  夜は家でもいいか、という千秋の質問に二つ返事で頷いた英司を、家につくなり奥の部屋に押し込むと、抗議の声が上がってくる。 「おい、なんだよ。千秋が俺のためにつくってるところ見たいのに」 「や、やですよっ。とりあえず、ちょっと待っててください」  しぶる英司を抑えて、キッチンに向かう。  さて、下準備はすでに終えている。あとは無駄なく調理するだけだ。 「すげえ……」  テーブルに並んだ料理の品々を見て、英司はそう漏らした。  今まで英司にご飯をつくってきて、好物だと思われるものをたくさん入れたのだ。 「これ全部、俺のために?」  どっかのドラマのようなセリフに、少し笑いそうになる。 「今日で食べきれないかもしれないですけど」 「いや、全部食べる」  飲み物も用意すると、乾杯した。英司はあまり酒を飲まないし、千秋は年齢的に飲めないので、ちょっといいジュースだ。 「改めて、誕生日おめでとうございます」 「ありがとうな。千秋のおかげで最高の誕生日だ」  そんな大袈裟な、と思ったが、英司は案外本気で思ってくれているようだった。  美味しい美味しいと言ってたくさん食べてくれる姿に、千秋の食べる手も進んだ。  そして、談笑しながらも、あんなに多かった料理を本当に平らげてしまった。  普段ほっといたら何も食べないというのに、胃袋どうなってるんだ。でも、つくる側としては、やはりすごく嬉しいことだった。
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