5. タイミングってやつ

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 柳瀬さんの誕生日お祝いプランはこれだけではない。最後に、どでかいものが待ち構えている。 「千秋、風呂上がったぞ」 「あ、俺も今から入ります」  すぐに風呂に駆け込むと、シャワーを捻って入念に洗い出す。  今日は泊まりだと最初から予定を合わせていた。つまり、最後にはアレがある。そのアレに向けて、千秋はまず風呂で準備をしなければいけない。  英司は、甘いものが苦手だ。だから誕生日ケーキはなかったが、その代わり別のもので補おうというのが千秋の考えであった。それが、夜のアレであると。  ……いや、自分でも何言ってんだとは思う。けど、そんな理由でもつけないと、できない、できるわけがない。こんなイベントがなければ、一生やらないだろう。  要は、今日は、英司よりもベッドの上で頑張ろうということなのだ。  千秋は普段、英司に全てを任せっきりなのである。英司は千秋の望んでることを言わなくても全てしてくれる。そして一方、千秋といえば、行為に及ぶまで抵抗してみせたり、任せっぱなしだったり……これ、マグロってやつ?そう思うことは少なくない。なのに改善しないのは、英司が不満そうじゃないのと、単に恥ずかしすぎるからだ。  だから、こういう特別な日くらい、できるということを見せねばならない。  千秋はぱんと頬を叩いて気合を入れると、風呂を上がった。どうせ脱ぐけど部屋着を着て、髪を乾かして、準備万端な状態で部屋に戻る。 「お、出た?」 「……はい」  英司はベッドに座って、テレビを見ていた。  最初が肝心だと、思い切って英司の近くに寄って座り、ぴとりとくっついてみる。 「なに、珍しい」 「たまには……」  そのままぎゅっと腕に抱きついてみると、英司はさすがに異変に気づいたらしい、「どうした?」と聞いてきた。いつもと違う千秋の様子に、少しドキドキしているのが垣間見える。  見計らって、千秋はテレビの電源を消した。そして、ベッドに座っている英司を前に、地面にぺたりと座り込んだ。英司の顔を見ようとすると、自然と視線は上がる。 「おい、どうしたんだよ急に」 「今から、します」  甘い行為を今から始まるとは思えない言い方で、千秋が宣言する。かなり緊張している。  わけのわかっていない英司の膝の間に割り入った。チャックのないズボンだったので、そのままくいと下げようとする。 「ちょ、ちょっと待て!」  そこで制止がかかる。なんで、と思って見上げると、英司が焦った様子で眉をひそめていた。 「これも、誕生日のお祝いの一貫?」 「い、一応」  英司のものはすでに兆し始めていて、早く始めたいという気持ちが高まる。 「千秋はそんなことしなくていい。それなら俺がしてやる方が……」 「……ですか」 「え?」 「……いや、ですか?」  下から眉を下げて聞いてくる千秋に、うっと英司が言葉をつまらせた。  ……たしかに、誕生日だから、やろうと思った。柳瀬さんなら、そこを舐めることだってできると思った。だから、いやいやじゃなくて、むしろ── 「い、や、じゃねえけど……」  歯切れの悪い英司に、千秋はむっとする。 「じゃあ、する……」  ここまで来たら意地だと、またズボンに手をかけたが、「こらこらこら、待てって」と本気で止められる。  ここまで勃たせているくせに、これ以上何を言う必要があるのか。 「え、うわっ」  英司がふいに千秋の脇に手を入れて、上にぐいと持ち上げた。床に座り込んでいたのが、膝立ちになってしまった。 「普段から俺が色々やってあげたいだけだから、千秋は気にしなくていいの」  きっと英司は、千秋が普段こういう時、何もできないこと気にして、嫌々やろうとしてると思ったのだろう。だから、それだけじゃないし……とも言えず、諭されるようにして千秋は黙った。 「千秋、おいで」  引っ張って千秋をベッドに横にすると、英司が千秋にキスを落とした。  しばらく見つめうと、千秋は英司の首に腕を回して、自らキスを誘った。 「ん……っ」  うっすら目を開けてみると、ぱちりと英司と目が合う。興奮しているが、まだ余裕ありというところだろうか。  そのまま服に手がかかった。はっとして、千秋はその手を掴んで止める。 「今日は、自分で脱ぎます」 「えっ」  実は、今まで英司に脱がされるばかりで、こういうとき自分で脱いだ試しがない。そもそも、英司は自分は服を着たまま、千秋だけを裸にするのが好きなの変態なのだ。しかも明るいところで。  余計恥ずかしくて、自分から脱げるわけがなかった。  しかし今、自分はTシャツをぱさりと、ズボンをもそもそ脱いでいる。  英司は何も言わず手で口を抑えながら、興奮気味に凝視していた。これだけで、そんなに喜ぶものなのか。    そして千秋は顔を真っ赤にしつつも、宣言通り、下着まで脱ぎ去った。何も纏わない体が晒される。 「……終わりました」  英司は、まだ口を抑えたまま、おう、と吐息まじりに言った。  そして、千秋を性急に転がすと、また覆い被さってキスをしながら、今度は体をゆっくり撫で始めた。 「はっ……」  そして、ピンポイントで乳首を弄り始めた。そこはすでに気持ちよさを拾うようになっていて、千秋の息が荒くなっていく。  同時に英司が体のいろんなところにキスを落とすから、その度に千秋は体を震わせた。
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