6. そばにいる方法

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6. そばにいる方法

 夏休みも終わり、あっという間に十月下旬。  最近、千秋が長年働いている居酒屋に新しいバイトが入った。  夫婦経営のこじんまりとした居酒屋なのでバイトは千秋だけだったのだが、店長が言うには「家庭環境が大変らしくて、バイト先に困ってたから拾った」だ。  事前に聞かされていたので、どんな人かと思っていたが、それがとても綺麗な男の人だったのだ。 「白石湊(しらいしみなと)です。今日からよろしくお願いします」  儚げな美人というか、線が細いというか。しかし、弱々しい感じもしない。背は千秋と同じくらいだ。 「高梨千秋です。よろしくお願いします」  優しそうな人だし、よかったと安心する。色々教えるのは千秋の役目なため仕事や物の場所を教えているうちに、湊は千秋より一つ年上なことがわかった。  休憩に入り、奥の部屋で湊が尋ねてくる。 「大学はこのへん?」 「あ、はい」  大学名を言うと、「あの頭のいいところか!」と感心された。 「俺は近くの看護学校に行ってるんだ」 「え、じゃあ、ものすごく忙しいんじゃ」  一つ上ということは、三年だろう。看護学生は医学生と同様、勉強や実習が大変だと聞いている。現に、英司や恵理子も忙しそうだ。 「まあ、そこはなんとかね」  家庭環境が大変、というのが絡んでいるのだろうか。そこに他人が突っ込む必要はないが、訳ありな様子が少し気になった。  ところで、と湊が話を変える。 「高梨くん、どっかで会ったことない?」 「え?白石さんとですか?」 「なんとなくそんな気がして」  どこでだろう、と湊が考え始める。言われてみれば、そんな気もしてくるし、そうでもない気もする。 「どっかですれ違ったりしたんですかね?」 「ああ、そうかも」  湊は、このへんよく来るしと納得したようだった。 「でも、俺本当に困ってたからここで雇ってもらえてよかった。高梨くんも優しいし。これからよろしくね」  雇ったのは自分ではないが、そう言われて嬉しくなった。 「いえ、こちらこそよろしくお願いします」  湊は話しやすい人だし、人手が増えるのもいいことだ。
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