6. そばにいる方法

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 家に帰ると、英司が部屋の中にいた。 「……あ、使ったんですね」 「ああ、なんかすげえドキドキした」  というのも、つい最近合鍵をお互いに渡したのだ。そして、今日初めて使ったというわけだ。  自分より先に家に英司いる、というのはいいかもしれない。と心がじわじわした。 「まさか、千秋もくれるなんてな」  ……まだ言ってるし。そう、最初は英司が「これ預かってて」と合鍵を渡してきたのだ。  英司の部屋に行くことはあまりないのだが、これなら朝時間が合わない時に弁当を置いて行ったりできる。  それならと、一番二人でいる時間の多い千秋の部屋の合鍵も渡そうと思ったのだ。  大抵千秋の方が帰宅が早かったり英司が遅かったりで使う機会が訪れなかったが、今日はバイトだったこともあり初めて使えたらしい。 「なんか、新たな一歩って感じだな」  着替えようとした千秋を後ろから抱きしめて、英司はそう言った。  新たな一歩。確かにそうかもしれない。 「……離れてください」 「あ、照れてる」  ぷに、と指で頬をつつかれる。 「そ、そういえば」  このまま変な方向に行きそうだったので、慌てて話題を変えることにした。  ようやく英司が離れたところで千秋は部屋着に着替えながら話す。 「今日新しいバイトの人が入ったんですよ」 「あの居酒屋の?行ったことないけど、たしかバイトは千秋だけだったんだろ?」 「はい。俺がいない日は店長の息子さんが手伝ったりしてるらしくて。人手ほしかったし、優しそうな人だったんでよかったです」  たしかに人は多い方がいいな、と英司が返す。 「ところで、男?女?」 「……それ、なんか関係ありますか?」 「いや、どっちでも要注意だ」 「え、そういう意味じゃ」  言い終わらぬうちにガバッと抱きつかれ、 「言わないと恥ずかしいことするぞ」  と抽象的すぎる脅しをされる。 「い、言いますからっ」 「えー?」 「男です、男」 「ふーん」  もう聞く耳など持っていない。英司はせっかく着替えた服を脱がしにかかってくる。 「ちょっと柳瀬さんっ、あ……」  そのままベッドに縺れ込めば、長い夜の始まりだ。
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