6. そばにいる方法

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 その日のバイトはいつもに増して忙しく、休憩時間にはへとへとになっていた。  どうやら、新しいバイトが入ったというのを聞きつけて多くの馴染み客が訪れてきたのだ。  その新人バイトである湊はずっと話しかけられっぱなしだったが、疲れる素振りもなく全員に柔和な対応していた。  湊はバイト経験が多いのか、千秋のバイトがない日もあったがすでにほぼなんでもできるようになっていた。  それに、あの穏やかで愛想のいい態度のおかげで、お客さんからの評判がとてもいい。  湊はほぼ毎日バイトを入れていた。何か事情があるのはわかっているが、かなり忙しそうにしている姿は英司に重なって少し心配になった。  千秋は休憩室で、英司に今日は遅くなりそうだと連絡を入れておいた。店長は帰っていいと言うだろうが、この様子だと夜中まで忙しいのが続くだろう。  いつも世話になってるこの店が賑わうのはいいことであり、千秋も力になれるならそうしたい。  すぐに、マナーモードにした携帯の画面が音を鳴らさずにぱっと明るくなる。英司からの返信、『じゃあ迎えに行く』とのことらしい。  ええっと思って、『いつ終わるかわからないんで』と返すと『じゃあ終わったら連絡して』と秒で返事がくる。  本当にいいのに、嬉しいけど夜遅いし寝てくれと遠慮心から思う。彼はただでさえ睡眠時間が少ない。  なんて返して迎えに来させないようにしようかと考えていたら、ガチャと休憩室の扉が開いてそちらに目を向けた。 「お疲れ、高梨くん」 「お疲れ様です。お客さん、大丈夫でしたか?」 「うん、みんな気さくでいい人たちだね」  人と話すの好きなんだ、とペットボトルの水を飲みながら楽しそうに湊は言った。 「じゃあ、あともう少しですけど、がんばりましょう」 「でも高梨くん、今日はもう上がりじゃ……」 「多分、今日一人で回すのは大変だと思うんで、手伝わせてください」 「高梨くん……。楽しいけど、実は高梨くんが帰ったあと大丈夫か心配だったんだ。ありがとう」  困ったような、照れたような笑みを湊は浮かべた。  それから、千秋がいたらゆっくり休めないだろうと思い、先に戻ると言って休憩室を後にした。
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