6. そばにいる方法

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 大学の授業を受けた後、千秋は盛大にため息をついた。それも無意識で。 「どうした千秋、ため息なんて珍しいな」 「いや、人生って上手くいかないなって……」 「……おい、大丈夫かよお前」  拓也が真剣に心配するのも無理はない。  当然、悩みの種はこの前のバイト終わりのことだ。  「中学で同じクラス」そう聞いた瞬間にピンときてしまった千秋は、英司の顔を見るなり確信した。  ──……白石?  ──よかった、覚えててくれたんだ。英司、高校入って、すぐいなくなっちゃったから。  ──え、いや……もしかして、新しいバイトって。  確認するように目を向けてくる英司に、千秋が縦に首を振る。  やっぱり、この人なんだな。  ──再会したばっかりで悪いんだけど、俺、周りに頼れる人がいなくて。  笑みは浮かべているけど、焦燥の滲む表情で、湊が言った。  ──少しだけでいいから、家に泊めてくれないかな。  そんなわけで、湊は今、英司の家にいる。  聞いたところによると、湊の家は崩壊気味な上あまり収入がなく、湊は今一人暮らし、ずっとバイトで生活費を賄ってきたらしい。学校も、奨学金でなんとかというところ。  しかし、住んでいた安くて古いアパートが緊急で取り壊しになるということで、行き場を失おうとしていたのだ。次の住処も、時間もない。  そこまで聞かされて、英司は様子を伺うように千秋の方を見てきた。  ほっとけない体質である千秋は、頷くしかなかった。というか、英司が頼まれているのだから千秋に許可を得る必要はないのだが、今回ばかりは仕方なかった。  なぜなら、湊こそが中学時代、英司に告白しキスまでした、あの男子生徒だったからだ。  ……まさか、白石さんが。  そもそも想いを伝えただけの湊は悪くないし、誤解もとっくに解消している。しかし、こうして目の前に現れたとなると、気にしないのは無理だった。  湊のことは全く嫌いじゃない。むしろその逆だ。だけど、なんでだ。英司の近くにいるとどうしてもモヤモヤしてしまう。湊の力になりたいのに、二人屋根の下、そう思うと嫌な気持ちが邪魔をする。  とにかく、どうしても気になるし、心休まらないのが最近の千秋だった。
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