6. そばにいる方法

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 湊は、千秋と英司のことを同じ大学で仲のいい隣人だと思っている。  しかし、英司は中学のとき告白された時点で千秋と付き合っていることを言っているのだ。  しかし今、それが目の前いる千秋だとバレていないのは、たぶん英司が名前までは言わなかったからだろう。それに顔でバレてないのは、覚えてないか、そもそも知らないかだ。もしかしたら、男だということも知らないかもしれない。  ……それ、ほぼ言ってないことになるんじゃ?  英司はというと、前より千秋の家にいることが増えた。 「千秋」 「はい?」  常にちょっとバツ悪そうなのが千秋は引っかかる。気になるは気になるけど、疑っているわけではない。そう気を使われると、千秋がものすごく気に病んでいるみたいじゃないか。 「キスしていい?」  パソコンで課題をしていると、後ろから抱きしめてきていた英司が聞いてきた。 「……ん」  キーボードを叩く手を止めて、頷きながら俯いた。いつもみたいに抵抗したら、すぐ引き下がられてしまいそうな予感がしたからだ。 「こっち向いて」 「ん」  首を少し捻ると、英司と目が合う。すぐに一度軽いのをされたが、しばらく伺うようなキスが続く。じれったい、千秋はそう思って口をわずかに開くと、ようやく英司の舌が入り込んできた。 「ん……」  英司とのキスは気持ちいい。もっと深く交わりたいと思ってその先へ進もうとすると、やっぱりストップをかけられた。  そして、こう言うのだ。 「そろそろ白石が帰ってくるから」  これがずっと続いている。  あからさまに不機嫌な顔をしてしまうと、英司を困らせるしと素直に黙るしかない。そこまでしたかったのか、とも思われたくない。  ……いや、内心そうだ。大いに不満だ。  英司は、千秋の声を聞かれたくないとか言う。でも、あいつほっといたら寝ないから、とも言うのはどうなのか。  じゃあ、毎日寝かせているのか?それに、寝不足とか、英司が他人のことを言えたタチではない。  とはいえ、寝ないというのは本当らしく、それは来年に迫る看護師国家試験に向けての勉強があるかららしい。  しかし、湊がいるうちは泊まればいいのに、と言えないのは、英司も自分の空間で集中して勉強する人だからだ。  医療関係の勉強や試験の、本当のところを千秋は知らない。どれも見た部分だけ。  でも、英司は医者を目指していて当然わかる。ということは、湊も英司のことを、千秋より理解できるということだ。二人は、お互いをよく理解できる。  英司の勉強の邪魔になることはしたくないというのは、揺るぎない思いだが、どうしようもない不安が募っていく。
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