⒈ 隣人を回避せよ

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 さっきまで賑やかだった空間は、シーンと沈黙に包まれる。  どうしよう。気まずいし、緊張する……。学校で二人きりになることなんてないし、やっと普通に振る舞えるようになったのに変なこと言ってしまったらどうしよう。千秋の緊張はマックスに迫っていた。 「高梨」 「は、はいっ」  沈黙を破って、ソファに座っている英司はその横をぽんぽんと叩いた。 「お前んちなんだし、ここ座れよ。ずっと床じゃ痛いだろ」 「あ、はい……」  心配してくれているだけなのに、英司の隣に座るだけで千秋はドキドキしてしまう。だって、英司くんが近すぎる……! 「お前、よく俺のこと見てるよな」 「えっ!」  うそだ、バレてたのか。  見るだけならと隙あらば英司のことを見ていたのは間違いないが、完全に気づかれていないと思い込んでいた。 「なんか言いたいことでもあんの?」 「ないですっ、あの、本当に……」  文句あんのか?みたいなニュアンスかと思って、慌てて否定する。が、聞いた本人は納得いってないって顔だ。 「じゃあ、俺の勘違いかな」 「勘違い?」  そのきれいな横顔は、独り言のように呟いた。引き続きなにやら思案中のようだが、「勘違い」というのが引っかかる。  英司は、顔だけ千秋の方に向けた。 「すげえ見つめてくるから、好かれてるのかと思った」  その鋭くも優しい眼差しが千秋を捉える。  好かれてるって、  千秋は、視線に捕まったように動けなくなってしまった。 「あ……」  どうしよう、言葉が出てこない。英司くんの目、好きだな…とか考えている場合ではない。  好かれてるって、先輩としてってことだよな。まず初めに英司相手に、好きイコール恋愛となる千秋の思考が、すでに期待に侵されていておかしいに違いない。  大丈夫、バレてるわけない。  第一、英司は女が好きなんだし、男なんて気づく余地もないだろう。  なら、普通に、普通に…… 「そりゃ、好きですよ。サッカー上手いし、みんなに人気だし、それに……」 「こら、そういう意味じゃないだろ」 「わっ」  こつんと軽く当てられた拳に、千秋はビクッと少し大袈裟な反応をしてしまう。 「高梨ー?」  追い詰めるように、顔を覗き込んでくる英司。  どうしよう、これってまさか、本当にバレてるのか……?
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