6. そばにいる方法

8/22
前へ
/152ページ
次へ
 その日はバイトで、当然湊とも顔を合わせる。そして話題は、自然と英司のことに。  休憩室で、湊が嬉しそうに言った。 「英司って優しいよね。本当に」 「え、ああ、そうですね……」  なんでそう思ったんですか?なんて聞いたら流石に驚かれるだろう。  すると、さっきまで嬉しそうな笑顔だったのが今度は照れたような笑顔になった。 「実は、さ……」  そして、言いづらそうにもごもごし出す。  ……あ、嫌な予感。 「俺、英司のこと好きなんだ」  高梨くんには言いたくて、と付け加える。そして照れ隠しするように、実は中学の頃一回振られたんだけど、久しぶりに会ったらまた──と捲し立てた。  湊は純粋に恋愛をしてるだけだ。何も悪くない。でも、この腹の奥の、気持ち悪い感覚はなんだ。 「ごめん、いきなり……。俺、実はゲイなんだ」 「あ、いや、そうじゃなくて」  千秋が何も返せずいると、引いたんじゃないかと思われたらしい。今さら驚きはしない、急いで否定した。  よかった、と湊が安心したような笑顔を見せる。  反対に、嫌な予感が当たって千秋の心臓はどくどくと嫌な音を立てている。  ここまでくると、千秋が何も言わないのがフェアじゃないような気がした。これ以上黙っているのは、千秋としても辛い。  でも、それでも言わないつもりだった。なぜなら、今回ばかりは英司が言おうとしてないからだ。たぶん、千秋をトラブルに巻き込みたくないからだろう。  一瞬開きかけた口を閉じて、ぎゅっと拳を握る。  不安や不満はいつの間にか、自分で把握できていないほど溜まっていた。  これが何なのか、わかっている。  ──柳瀬さんをとられたくない、ただの嫉妬だ。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1328人が本棚に入れています
本棚に追加