6. そばにいる方法

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 十一月にも入れば、流石に昼間でも寒くなってきた。  湊は変わらず英司の部屋に居候していて、英司は千秋をこまめに気遣ってくる生活が続いていた。  ……正直、つらい。誰も何も悪くないのが辛い。  英司に甘えたいわ、欲求不満だわ、なんやらで千秋はかつかつであった。開き直りか?と聞かれたら、そうだけど何か?と答える。  今日は日曜日だが、英司に弁当を渡す日だ。  千秋は朝から用事があって時間が合わないので、合鍵を使って中に入ることにした。  できるだけ静かに鍵を開けて中に入ると、中はシンとしている。多分まだ寝ているのだろう。  そろそろと奥の部屋まで歩いて行く。  しかし、ドアをそうっと開けたところで千秋は目を見開いた。 「な……!」  英司からは、英司が床で湊はベッドで寝ていると聞いていた。なのに、どう見ても目の前で広がる光景は、それとは全く違った。  床に敷いた布団で、二人仲良く、くっついて寝ていたのだ。正確に言えば、湊が英司に引っ付いている。ほっそりとした腕が英司に巻きついてスラリとした足が英司の足に絡んでいた。  びっくりして、カンと足で何か蹴ってしまう。栄養ドリンクの缶だ。  その音のせいで、英司が、徐々に目覚める。 「ん……?あれ、千秋?」 「……弁当、ここに置いておくんで」  英司が状況に気付く前に、千秋は空いていたテーブルに弁当袋を置いて踵を返した。 「え、千秋?……って、おい、白石!」 「んー、英司うるさい」  やっぱり気になって振り返ってみたが、湊は眠たい目を開けずにモゾモゾさらに英司にくっつこうとする。  ……無理だ、耐えられない。嫌な汗が流れるのがわかりながら千秋はすぐ去ろうとしたが、 「千秋待てって!あれはあいつが勝手に……昨日はちゃんとベッドで寝てたのに」  湊を振り解いてすぐに起き上がってきたらしい、慌てた様子で玄関で靴を履く千秋を引き止めようとする。  その後も、今まではあんなことなかった、とか、勘違いしないでくれ、とか。  わかってる。だから、タイミングが悪かったのだろう。 「柳瀬さん。俺なら大丈夫なんで。用事あるんで行きますね」  妙に冷静な千秋に、英司はあっけに取られたように固まった。  でも、こうでも装わないとやってられない。  そして、千秋……とまた呼ばれる頃には、千秋はすでに背を向けていた。
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