6. そばにいる方法

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 その帰り、千秋は考えていた。  今付き合っているのは自分だが、この先湊に勝てるのかと。  それから、自分は英司に見合う人間なのか。  千秋は湊の「諦めない宣言」に思うよりもずっとショックを受けていたらしい、今まで考えもしなかったことを悩み始めていた。  だって、湊が現れてから思ってしまった。自分と英司を繋ぐのは過去だけで、この先はわからない。  頭が良くて、人一倍頑張っていて、今もすごいけど、英司はきっと将来ものすごい人になる。  だから、自分は英司に釣り合ってないこと気づいたのだ。釣り合ってないにしても雲泥の差がついていては、千秋も流石に自信をなくす。  その点、湊はどうだ。医療関係に携わるということで、将来的にも英司と交わる部分も多いだろう。  それに、見た目も文句のつけようがないし、穏やかで落ち着く。人当たりもいい。よく千秋に「素直になれよ」と言う英司にも合うだろう。  だめだ。本気で自信無くしてきた。  こんな気持ち、どこにぶつければいいんだ。  家に着くと、英司が千秋の部屋にいた。  中に入ると、音で気づいたのか英司がすでに玄関で待っていた。 「千秋、飯まだだよな?」 「え……はい」  入るなりそんなことを言われる。朝のことや湊のことを言われるのかと思っていたから予想とは違った。  手を引かれて中に入ると、いつかのように千秋の大好物たちがテーブルにぎっしり詰められていた。 「機嫌とるみたいであれかと思ったんだけど、でもじっとしてられなくて」  買ってきた、ということだろう。  正直沈んでいた心が、ぽわっと浮いた。機嫌をとられないよりとられる方がいいというのはおかしいのだろうか。 「とりあえず食おう」 「はい、あ、手洗ってきます」  さっと洗面所で手を洗い終えると、部屋に戻り、いつも通り英司の向かい側に座った。 「いただきます」  英司が千秋のために買ってきてくれた料理を一口食べれば、少し心も満たされた。自分は案外簡単な人間なのかもしれない。  そして、英司が口を開いたのを見て、千秋はそちらに意識を寄せる。 「朝のことだけど」 「……はい」 「やましいことはないから、堂々と言う。でも、ちょっと油断したことを謝らせてくれ」  まっすぐ目を見て言う英司。わかっていたつもりだったが、直接聞くと安心した。
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