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湊が英司の部屋に居候し始めてから三週間ほど経った。
ついに、新しい部屋が見つかったらしい。
それを休憩室で聞いた途端、じゃあこの我慢も終わる、なんて真っ先に考えた自分は性格が悪い。
でも、部屋が見つかったのなら本当によかった。なにせ、湊は本気で部屋探しに苦戦していたからだ。それは千秋も経験済みなため、よくわかる。英司が好きとはいえ、ただ居座っていたいわけではなかったのだ。
諦めない宣言は取り消されていないが、湊は基本すごくいい人で、だからバイト先で普通に話すし、そこにはいちいち変な感情もない。
ただ、恋人がいても物おじしない部分はかなり手強い。
だからあれから何もなかったが、英司が油断せずとも千秋はずっと不安だった。
それは、湊と関係のない、自分が釣り合ってるのか云々も未だに気にしていたからだ。
引越しで手伝うことはあるかと聞いたら、そこまでは迷惑かけられないと言われた。主に頼られていたのは英司だったが、それだけの意味ではないと察して千秋はすぐに引き下がった。
──そして今日、まさに湊が英司の家を出る日である。
千秋は完全に一日休みの土曜日で、手伝いはいらないと言われても隣で何かやっているのが聞こえると気にならないわけがなかった。
英司の家に持ち込まれた湊の荷物は全く多くない。家電などは備え付けのアパートを選んでいたらしい。それでも一人で全て運ぶには大変なため、英司が手伝うことになった。
隣からは二人の話し声が聞こえる。
しかし、これで我慢生活も終わりだとわかっているのに千秋の心は休まらない。
んー……何話してるかまではわからないな……。
そして今、こうしてストーカーのように壁に耳をくっつけて隣の音を拾おうとしている。
なぜなら、湊がここで何か仕掛けるのではないかと思っているからだ。
それで、ないと信じたいが、最悪英司がそちらに傾いたら……と不安で仕方ない。この三週間、千秋に言わないだけで湊の方がいいと思われていたら。千秋が自分に釣り合わないと気づいてしまったら。
今日家を出ても、連絡を取り合って、もっと距離を縮めていくかもしれない。元々友達なのだから、遊びに行って、仲を進展させてしまうかもしれない。
そんなの、絶対、いやだ。
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