6. そばにいる方法

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 そんな嫌な予感はよく当たる。  引越しだから荷物を動かしたり下と上を行き来するが、途端に音がしなくなったのだ。  壁に耳を当ててみても、やっぱり何も聞こえない。  な、何してるんだろ。でも部屋の中には確実に入ったはずだ。  千秋の不安は最高潮に達しそうだった。  合鍵を使って、様子を見に行くか?  しかし、あの朝、英司が湊に布団の上でくっつかれているのを見て嫌な汗をかいた。千秋は地味にそのことを忘れきれてないことに気づく。  でもそれを振り切って、千秋は英司の部屋の鍵を持って玄関を飛び出た。  だからといって、このまま黙ってるなんて馬鹿らしいじゃないか。  英司の家の鍵は空いていた。靴の向きなんて気にせず脱ぎ捨てて、ドタドタと中に入る。  そして、勢いよく部屋の扉を開けると、 「千秋……!」  やっぱり、というのがまず初めの感想だった。  一つ目の嫌な予感が的中した。まさに、湊が英司に首に抱きついて顔を寄せているところだったのだ。 「……高梨くん」 「二人とも、なにして……っ」  千秋は近づくと、ぐいぐいと引き離そうとする。すぐ離れたが、英司が話そうとする前に湊が口を開いた。 「さっき、俺、英司に告白したよ」  間髪入れないその言葉に詰まる。  ……一番の嫌な予感が当たった。 「高梨くん、一つ聞いてもいい?」 「おい、白石……」 「……なんですか」  いつもよりはっきりとした口調で、まっすぐとこちらを見据える湊。  英司が割って入って止めようとしたが、千秋がその言葉に返したことで黙った。 「高梨くんは、本当に英司のこと好きなの?」    ぎくりとする。  好きなの?と聞かれて好きです、と素直に答えられる千秋ではない。……ああ、こういうところか。 「俺が英司のこと好きって言っても、諦めないって言っても、高梨くんは何も言わなかったでしょ?」 「っ……」  これは鏡だ。千秋が心の底で思っていたことを、そのまま返してくる、鏡。  千秋は今まで、英司に一度も好きと言ったことがない。 「だから、本当に好きなのかなって」 「白石、そのへんにしとけよ。千秋の性格は俺もわかってる」  湊を説得するように言う英司。そう言われると、余計惨めな気持ちになった。
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