6. そばにいる方法

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 だって、そんなこと、簡単に言えない。英司の言う通り、性格もあるし、千秋が英司限定で素直になれないというのもある。でも、英司は湊のようなちゃんと言える人の方がいいのかもしれない。  こんなときに、湊は英司と中学の頃キスしたことがあるのだと今は関係ないことも急に思い出したりして、千秋はぐちゃぐちゃだった。 「高梨くん、どうなの?」  湊の顔つきは真剣だ。千秋を完全なライバルとして見ている。  ……もうやだ。こんなこと、ずっと考えてるのも、ずっと不安がってる自分も。  怖がってる自分なんて、知りたくなかった。  釣り合わないなんて、思いたくなかった。  英司が自分から離れるかもなんて、考えたくなかった。  極限状態でそんなことを思った瞬間、千秋の口からは驚くほどいろんな言葉が出てきた。 「……たしかに、白石さんは綺麗だし、優しいし、素直だし、いつもがんばってるし、俺なんて勝てないですよ。柳瀬さんにだって、追いつけないし、年下だし、釣り合わないし。でも、俺だって、いつも柳瀬さんのこと考えてご飯作ったりしてるし、邪魔しないようにしてるし、ずっと、柳瀬さんのこと考えてて……だから、そんなこと言われる筋合いないし、そもそも、柳瀬さんのこと、好きだしっ……」  子どもみたいに一気に言ったせいで、息が少々切れる。それでも、一度開いた口からは、まだするすると溜めていたことが出てくる。 「だから、全部わかってるから、それでも白石さんに負けたくないし、柳瀬さんのこと、絶対あげないし、柳瀬さんは俺の……」  そこまで言って、はっと止まる。二人ともシーンと黙り込んでいるのに気づいた。 「う……」  表情は俯いて見れないまま。 「千秋……」 「もういい、勝手にしろっ!」  恥ずかしいやら不安やら辛いやらと限界突破した千秋は、英司が伸ばしてきた手を振り払ってドタドタと英司の家を出ると、逃げるように自分の家のベッドに潜り込んだ。
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