6. そばにいる方法

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「じゃあ、白石さんとは……」 「ああ、断った」  ひとまず、ほっとした。一番気にしていたことだったが、英司は離れないでいてくれた。 「でも、さっきくっついてたけど、キスとか」 「してねえよ。あいつが千秋くるの見計らってフリしただけだし」 「え!?なんで」  わざとということか?意味がわからなくて首を傾げると、英司も同じような反応だった。  湊なら何か理由がありそうで、騙したな!と単純に思うこともできない。  でも、何もないのならよかった。本当によかった。 「あいつ、お前にありがとうってさ」 「ありがとう?」  礼を言われるようなことはしていないと思う……が。 「ちゃんと答えてくれてありがとう、時間かかるだろうけどこれで諦められるかもって。……まあこれ、俺から言うのもあれだけど」 「……たしかに」 「あと、バイトまたよろしくね、だって」  やはり湊は悪い人ではないから、それが嫌味でないことはすぐわかる。今日だって、ただ真剣だった。こんな状況でバイトが一緒なんてどうなるかと思ったが、でもなんとなく大丈夫な気がした。  もしかして、わざと英司に密着して見せたのは、千秋の本心を暴き出して諦める踏ん切りをつけるためだったのかもしれない。  そうなると、いつも中途半端で隙だらけな自分にほとほと呆れた。  たぶん、さっきみたいに英司が好きだと、離さないという強い意志をちゃんと見せていれば、湊も諦めないなんて言わなかったかもしれない。だって、現にこうして湊は引き下がろうとしてくれている。 「……もう不安なところはない?」  英司が覗き込んで、そう聞いてきた。 「……はい」 「ん、ならよかった。じゃあ、もっかいハグしとく?」  冗談ぽく言った英司だったが、千秋は迷わず抱きついた。 「おっ……まじか」  驚いたけど嬉しそうなその声がダイレクトに耳に響く。それだけで、ゾクゾクした。   最近、湊がいたということもあって、あまりできていない。それどころか、キスだけとか、寸止めばかりのせいで千秋は一人慰めることが多かったのだ。  要は、完全なる柳瀬さん不足だ。 「柳瀬さん……」 「ん、なに?」  さっき色々あったすぐ後にどうなのか、とか思うところもある。  でも、したい、柳瀬さんと、今すぐに。熱帯びてくる体がそう訴えている。  英司はたまに素直になる千秋がたまらないとか言っていたが、今日はずっと素直でいられる気がした。でないと、不足を補えないと思う。 「柳瀬さん、したい、しよ……」  曲げた膝をきゅっとしめて抱きついた耳元で言うと、英司は珍しくぴくりと反応した。 「千秋……」  そして千秋の顔を確認したかと思えば、「いいんだな?」と確認をとってくる。 「うん」 「……もー、今日の千秋は大変だ」  英司から離れて、自らベッドにころんと転がってみせると、英司が困ったように笑いながら言った。
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