6. そばにいる方法

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 外はもうすっかり暗い。  満足するまで交じりあったあと、二人はベッドから一歩も動けないでいた。 「……今日の千秋はすごかった」 「や、やめてくれません、そういう言い方」  恥ずかしいから。  寝たまま背を向けると、頭の下にある腕ががばっと巻きついてきた。 「な、なに……」 「んー?幸せだなって」 「……いきなり」 「いきなりじゃねえよ。千秋が恋人なのも、好きって言ってくれたのも、こうして一緒にいられるのも」  表情は見えない。けど、優しい顔をしてるのだろう。 「千秋に好きって言われなくても正直いいと思ってたけど」  なんだと? 「でも、言われたらものすげえ嬉しくて。やばい幸せってなった」 「そんなことだけで、ですか?」 「なんだよ、悪いか」  千秋でなければ、もっと好き好き言ってくれる人はいっぱいいるはずだ。それに、恋人なら珍しいことでもないはずで。  でも、この人は俺だから、と言う。 「俺は再会したとき、柳瀬さんのこと嫌いだって思ってました」 「あーうん、……そのことは本当に悪かった」  英司はばつ悪そうな声で笑った。 「でも、それは逆に、ずっと柳瀬さんのことが頭のどこかにあって、忘れたくなくて……」  千秋は話し始める。 「だから、俺、色々と面倒臭いけど……柳瀬さんのこと、本当に好きです」  これで顔を見て言えてたら、満点なんだろうけど。でも今はこれだけ。とにかく、自分の気持ちを英司に伝えたいと思った。 「……千秋、お前は本当に最高だ。俺も好きだよ、本当に、誰よりも」  これでもかと抱きしめられて、喜びを発散するようにぐわんぐわん揺さぶられる。  ここまではしゃいでる英司は見たことがなかったので、少しあっけに取られる。さっき勢いで言うよりも、こうやって改めて言うのがよかったか。  好きの言い合いなんて千秋には恥ずかしいけど、自分も嬉しくなって、思わず笑みがこぼれた。それも見えていないと思ったのに、後ろからしっかり見られてたらしい。 「……俺、千秋の笑顔も好きなんだよな」 「見ないでください……」 「千秋ちゃん可愛いー」  顔を伏せるとからかうように言われた。  英司は千秋の顔を向かせようとして、千秋は全力で抵抗する、なんて子どもみたいなじゃれ合いが始まる。 「こっち向いて、千秋」  しばらく攻防が続いた後、そう優しく言われると、結局千秋はそろそろと顔を向けるしかなった。たぶん、千秋はこの声に弱い。  体ごと向かい合うと、ふいに軽いキスを落とされる。  好きだ。その声も、このキスも。この人が好きだ。  何度もキスをしたのに、また飽きずにキスをした。ただ、お互いが満足いくまで、ずっと、ずっと。  抱き合って一緒に眠りについたその夜、夢を見た。  中学生の時の帰り道、彼の隣を歩く夢を。ただひたすら、彼が隣にいるその道を。
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