6. そばにいる方法

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「お茶淹れました」 「おお、ありがとうな」  温かいお茶が入ったマグカップを手渡す。誕生日に渡したそれは、千秋宅の英司専用としてすっかり馴染んでいる。 「そういえば白石さん、模試の結果が良かったって喜んでましたよ」 「お、まじか。今年卒業だろ?」  英司の横に座ると、俺たちもがんばらなきゃな、と眩しい笑顔を向けられた。英司は前より表情豊かになった気がする。  医者を目指す英司、教師を目指す千秋。二人はいつしか、共にがんばる、という意識を自然と持つようになっていた。 「恵理子も留学するって言ってたな」 「え、そうなんですか?」 「おう、なんか最高の医者を見つけたとかなんとか」  恵理子も変わらず学問に弛みないアグレッシブさを見せているらしい。  そうなると、恵理子から英司の昼食写真をこっそりもらえなくなるということか。それは少し寂しい。 「寂しい?」 「え?」  心の中が読み取られたのかと思って、ぱっと驚いて顔を見た。 「いや、当たり前だけど周りって徐々に変化していくだろ。そういうの、寂しいのかなって」 「……柳瀬さんはどうなんですか?」 「んー、まあ、そこまで思わねえな。千秋もいるし」 「お、俺関係ありますか?」  いきなり名前を出されて驚く。絶対関係なかった。 「関係あるよ」  落ち着いた低い声が、部屋にすんと響いた。 「俺は、千秋が変わらずそばにいてくれれば、寂しくない」  穏やかに、真剣に言った英司は、横に座る千秋の手を取ると甲にキスを落とした。  こんな恥ずかしいことをされて嬉しいなんて、千秋も随分この人に掴まれている。そして、千秋も同じようなことを思っているだなんて。  ……だから、これはその雰囲気に乗せられただけだ。 「……俺、ずっと柳瀬さんのそばにいたいです」  そう言った後に、やはりとんでもない恥ずかしさが襲ってきて千秋は顔を真っ赤にさせた。やっぱり、自分にこういうのはハードルが高い。今のなし!と言いたくなってしまう。  でも、千秋の手を繋いだ英司が嬉しそうに笑ったので、プラマイちょっとプラスかな。  好きだった人は許せない人に、その人は今、ずっとそばにいたい人になった。  繋がれた手を繋ぎ返す。たまに、こっちから繋いでみる。  そうすれば寂しくないだろう。  そういう自分たちを、ずっと紡いでいけばいい。 【完】
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