番外編

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 そもそも英司も普段はあまり飲まない。  飲むと勉強に支障が出る可能性があるからだ。それだけであって、飲めないわけじゃない。 「酒って……あるんですか?」 「実は買っておいた」  気づかなかった、と千秋が驚いた顔をする。 「飲みたい?」 「……ちょっと興味はあります」  本当はすごく興味があるのだろう。やはりほっといては自分の知らぬ間に無防備な姿を他人に晒す可能性があった。危ない。これは先に見ておく必要がある。場合によっては、お酒禁止令を出すことになるかもしれない。  だから下心なんかない。そう、下心なんて。  英司は冷蔵庫で買ったお酒二人分を取り出すと、部屋に戻った。  持ってきた缶の表示を見て、千秋が本当にお酒だ……と呟いた。  その様子に思わず笑みが零れる。  やっぱり下心ありありでごめんな、と速攻手のひら返しで心の中で謝っておいた。ごちゃごちゃ言ったけど、本当はただ酒を飲んで酔ってしまう千秋を見たいだけなんだ。  そんな英司の心の内を知るはずもない千秋は、慣れない様子で缶を握っている。 「じゃあ、乾杯」 「か、乾杯」  英司が少し飲むと、千秋は続くようにして、おずおずと口をつける。そして、ちびっと口に含んだ。 「どう?」 「……あ、おいしいかも」  少し味わってから、千秋がそう言って顔を明るくさせた。千秋が好きそうな甘いものを選んだのだ。  大丈夫だとわかると千秋はゆっくり飲み進めていく。  まあ少し飲んだくらいでは変わらないか。  とりあえず、ちょっとずつ飲む姿がなんだか幼いこどもみたいで可愛くて、もはやそれだけで満足だ。  英司は純粋に千秋と酒を飲みながらの会話を楽しむことにした。
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