番外編

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 飲み始めてしばらくすると、二人して缶一本を空にした。 「柳瀬さん」 「ん?」 「もうないんですか?終わっちゃいましたよ……」  千秋の顔はほんのり赤に染まっていた。   「もう終わりな。飲みすぎるとよくないだろ」 「でも、まだ飲みたいです」  服の腕の部分をきゅっと掴まれて、英司はうっと言葉をつまらせた。  ……これは完全に酔っている。  これ以上飲ませるわけにはいかないのに、上目遣いでねだられると今すぐ買いに走ってしまいそうになった。 「柳瀬さん」 「……こーら、そんな顔してもだめ」 「んー……」  駄々をこねるように唸りながら、今度は体ごと寄りかってくる。  ……いや、まじでやばいかもしれない。酔った千秋は意識はハッキリしているが、いつもより数段甘い。可愛い。  確かにこういう千秋を見たかったはずなのに、可愛すぎるあまり英司は逆に困っていた。 「そんなことしてもだめだ」 「そんなこと?……あ、また見返りに何かやらせようってんですね」  勝手に納得する千秋。なんのことだ、と思った瞬間、ちゅっと頬に何かが触れる感覚。 「ん……」  千秋にキスされている。頬だけど。  千秋からキスされることは滅多になく、されたときは毎回驚く。  しかも長い。頬だけど。 「……これでいい?」 「う…………っ」  覗き込んでくる千秋にぐっと心臓を抑える。 「柳瀬さん?」 「……だめ。色仕掛けだめ」 「……何言ってるんですか」  でもとにかく酒は諦めてくれたらしく、安心した。  しかし不満そうにしながらもぴたりとくっついてきて、そのギャップにぐらぐらする。甘すぎる恋人に英司は内心悶えていた。  英司は千秋に再会して以来、萌えという感覚を完全理解してしまったのだ。
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