⒈ 隣人を回避せよ

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 ところが、両思いになって半年、三年生の卒業式の日。  これらが黒歴史となる決定的な事件が起こる。  結論から言う。  俺は二股されていた。  中学二年だった千秋は、高校のことなんか考えていなかったから、英司がどこへ行くのかも聞いてなかった。  他の先輩たちが大体目標にしていた近くの学校があったから、頭がいい英司もそこに行くのだと勝手に思っていた。  どこにせよ、一年間の辛抱である。千秋も三年になれば、英司と同じ高校を目指して受験勉強を始めるつもりなのだ。  事前に話し合ったわけではないけど、今日まで何も言われなかったし、付き合いの方は続行ということなんだろう。  卒業式が終わると、卒業生を見送るために玄関前は生徒で溢れかえった。  写真をとったり、最後の挨拶をしたり、連絡先を教えあったり。各々、学校最後の時間を過ごしている。  千秋は、一番に英司を探した。写真も取りたいし、もしできるなら、第二ボタンってやつ、もらってみたいし……。いや、それはほんと、できたらでいいんだけど!  なかなか見つからなかったが、しばらくして英司らしき生徒が遠目に見つかった。  叫んでも聞こえないだろうし向かおうとしても、英司はさらに反対に進んでいく。横には同級生らしき男子生徒がいて、見たことない先輩だった。友達だろうか。  とりあえず一言だけかけようとその後ろ姿を追いかけると、二人は人混みを抜けて裏側に向かっていく。  なんでそっち?とは思ったけど、二人はかなり仲のいい友人だったのかもしれない。二人きりで最後に話したいのかも。  なら邪魔するのもあれだし、俺は玄関の方で待っていようか。でもなんとなく気になって、着いていくことにした。俺、覗きとか悪趣味だよな…。  考えてるうちにすでに二人の姿は見えなくなっていて、慌てて千秋も向かう。  あそこを曲がれば、多分二人がいるはず。千秋は静かに近づいて、角からそっと目だけ出した。  が、そこでまさかの光景を目の当たりにする。  英司とその男子生徒が、キスをしていたのだ。  想像だにしていなかった光景に、千秋は声が出そうになった。急にバクバク鳴り出す心臓。千秋は急いで手で口を押えた。  な、なんで、キスして……。  でももしそれだけならば、千秋は急にしてきたのかも、と考えが及んでいたかもしれない。  しかし英司は、抱え込むように男子生徒の頭を抑えていて、片手は背中に回していた。  まるで、千秋にキスする時のように。  そして、決定的な英司の一言。 「好きだ……」
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