⒈ 隣人を回避せよ

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 そんなわけで、英司は許すまじ最低男として千秋の記憶に残ることとなり、付き合っていた時のことは黒歴史として記憶の隅へと追いやられることになったのだ。  今なら浮気されても、珍しいことじゃないと思えるかもしれない。けど!中学二年、純粋も純粋すぎる幼い千秋に、あれはだいぶ堪えた。  千秋、齢十四にして二股をかけられる。とほほ、というわけなのである。 「聞いてんのか、高梨」 「聞いてますよ」  英司の言う本題とやらは「なんで英司の卒業後に連絡が取れなくなったか」だったか。  今更だけど、なんで俺は普通に家でこの人と喋ってんだ。腰に回された腕はそのまま、外そうとしても外れないし。馴れ馴れしいにもほどがある。 「携帯解約したんです。受験勉強に集中しようと思って」 「俺が卒業した後すぐに?嘘だな」 「う、嘘じゃっ」  解約は嘘だが、メッセージアプリで英司をブロックしたのは本当だ。アプリで事足りるから電話番号は交換してなかったし。  そもそも俺は、あれからあまり人を信じられなくなったんだぞ。  人間不信といえば大袈裟すぎるが、他に気を許したいと思った相手がいても、どこか疑ってしまう自分がいる。じゃあ信じようとしなければいい、と割り切れもできないし、これが意外に辛い。誰もがみんな英司と同じではないのだ。  本当はドラマみたいにビンタでもしてもいいところを、そうして逃げてただけなんだぞ。 「おい、高梨……」 「だああ!あんただって、一年間家にも学校にも会いに来なかったじゃないですか!」 「だってそれは俺、高校入ってからすぐ海外に行くことになったから」 「え、海外?」 「それも連絡入れたけどな。本当急だったし、行ってからも日本に全然戻れなかったんだ。ごめん」 「いや、それは俺、全然……」  英司が卒業した後、英司に関することは全てシャットアウトしていたから、知らなかった。
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