⒈ 隣人を回避せよ

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「他のやつらに連絡先聞いても知らないの一点張りだし」  それは千秋がお願いしたからだ。 「……俺、卒業する前にお前になんかしたか?」  今度は少し緊張したように聞く英司。  ……やっぱりそう来たか。  完全に思い当たらないって顔で、千秋の返事を待っている。  もしかして、少しは千秋のことも気にしていたようだ。それが、二股とはいえ、離れられるのが嫌だったからか、それはわからないけど。  その珍しい表情を見ると、なんだかこちらが悪い気がしてくるからタチが悪い。 「別に、なんもしてないですよ。まだ中学生だったんで、卒業したら終わるんだと思ってたんです」 「お前なかなか薄情なやつだな」  真顔で言ってくるから、腹立つ。青筋を浮かばせると、千秋は「はいはい薄情でいいです」と適当に返事した。 「そういうことなら、また付き合わない?」 「は!?」  正気か、こいつ。  いや、英司は自分たちを、幼かったが故に離れ離れになってしまった元恋人同士という認識なのだ。  そういう流れになるのも……ってそんなわけあるか。もう五年も経ってるし、大学生だし、別に恋人がいるとか考えないのか。あんな昔の恋はとっくに終わったって思うだろ普通!  いや、英司のことだ。それを利用して、また都合のいいこと運ぶつもりなのかもしれない。  突拍子のない提案に、ぐるぐる考えてると、現実に引き戻すように腰を引き寄せられる。  これ以上引き寄せてどうすんだ、と思ったら、英司の顔がふっと近づいて、千秋の唇に軽く口付けた。  かあっと顔が一気に熱くなる。 「なっ、なん、あんたいきなり!」 「で、俺ともう一回付き合う?」  だからなんでこの男はそう、自信満々なんだ。 「絶対……」 「高梨?」  そうやって、色んな人たちを引っ掛けてきたんだろう。  でも、俺は、俺は。 「絶対付き合いませんからーっ!」 「は!?」  千秋は言いながら立ち上がり、英司の首根っこを掴む。そして、ここ最近一番の力で大の男を玄関外に放り出した。英司は「おい!服破れる!」と何度も千秋を呼んだが、最後まで答えることはなかった。 「ふうっ、ふうっ」  やっぱり、あの男は危ない。  今のはちょっと油断したけど、あんなことされても俺の絶対許さないの誓いが揺らぐことなんてない。本当にない、絶対にない!
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