2. 流されるな

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 拓也の部屋に居候し始めてから、約1週間が経った。 「拓也、バイト行ってくる。飯は置いといたから」 「おう、サンキューな。いってらっしゃーい」  驚くほど上手くいっている。拓也の家には何度か泊まったことがあるからか、勝手がわからないというわけではなかったしお互い気を使いすぎることなく過ごしていた。  これで一気に拓也には借りができてしまった。感謝しないとな。  週三の飲食店のバイトは火、木、日。日曜のみ昼からだが、平日は学校があるので夜からシフトを入れている。  今のところ、英司と遭遇したのは全部日曜だ。英司は相変わらず超ブラック企業のリーマンさながらの生活スタイルが続いていたようだが、日曜にはさすがに余裕が生まれるのだろうか。というか、英司は大学生ではないのか?  ああ……また。あの人のこともう考えるなって。こうして会う心配をせずに過ごせてるんだし、早く新しい家を……。そう思うのも、もう何回目だろうか。  バイトが終わって外に出ると、少しじめっとした空気を肌に感じた。そろそろ梅雨か。というか、今にも雨降りそうだな。  もう十時だし、早く帰ろうと早足で歩き始める。  このへんは飲食店が並んでいる繁華街で、今のように夜になるといろんな人が飲みにやってくる。たまに酔っ払いが絡んでくることもあるが、治安が悪いわけではない。  実は高校時代から同じところでバイトさせてもらっているため、ここには顔見知りも多くいるのだ。 「おっ、千秋じゃねえか。今度店行くからなー」 「こんばんは。じゃあ待ってますね」  中年くらいのサラリーマン、あれは常連の客だ。ありがたいことに顔を覚えてくれる客は多い。みんな良くしてくれるし、千秋はこの街が好きだった。  と、通りも抜けそうな頃、真横の店から出てきた人にぶつかった。 「あっ、すいません」 「こちらこそごめんなさい」  相手は髪の長いきれいな女の人だった。全員が全員顔見知りなわけではないが、見たことない顔だった。
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