2. 流されるな

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 送ると言われ断ろうとしたけど、結局拓也のアパートまで一緒に来てしまった。  本当はこのままうちのアパートに連れて帰りたいけど、とも言われたが、それは流石に無理だ。  拓也の家には荷物を色々置いてるし、そもそもこちらが居座らせてもらってる身なのだ。勝手な事情で急に、今日は自分の家に帰りますなんてことはできない。親しき仲にも礼儀ありだ。帰るなら帰るで、ちゃんと言わないと。  ただ別に、英司に言われたから帰るとか、そういうわけでは決してない。 「ここです」 「……へえ。何階?」  そこまで知る必要もないはずだが、もしかして部屋の前まで送るつもりだろうか。か弱い女子じゃあるまいし、そこまでする必要はないのに。 「あの、ここまでで大丈夫なんで。……送って下さってありがとうございました」 「いや、部屋の前まで送る」  アパートを睨みながら少し怖い声で言った英司の、謎の迫力。今から戦いにでも行くのか……? 「じゃあ……」  なんとなく聞くのは憚られたので、部屋まで送ってもらう否、送らせてあげることにした。  拓也の部屋は三階だ。エレベーターに乗ればすぐ着く。降りたらすぐ玄関ドアが見えて、少しだけ通路を歩くだけでよかった。 「ここか……」 「じゃあ、ありがとうございました」  今度こそ別れようとしたが、なぜか英司は動かない。 「帰らないんですか?」 「お前が入るまで見届ける」 「は、はあ?子どもじゃないんだから、そこまでしなくても」  このまま入れば、拓也と英司が鉢合わせかねない。そうなれば絶対面倒なことになるに決まってる。 「いいから、ピンポンしろって」 「ピンポンって。いや、合鍵借りてるんで……」 「はあ?ただの友達相手にそんな簡単に渡すかよ」 「ただのっていうか、すごい仲のいい友達なんで!」  さっきからなんなんだこの人は。そろそろ近所迷惑だしさっさと帰りたい。こうなれば、このまま入るしかないか。  というところで、ガチャ、と開いた目の前のドア。 「おい千秋、さっきから何喋って……」 「た、拓也」  
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