2. 流されるな

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 まずい、僅かこの一瞬で一番めんどくさい状況に……!  拓也はドアノブを握ったまま、千秋の隣の知らない人間の存在に固まっている。  そしてそのまま千秋の腕をちょいちょいと引っ張ると、 「このイケメンだれ!?ていうか俺睨まれてる!」  と耳元で手を立てながらコソコソと言ってくる。だから嫌だったんだ、会わせるの……。 「えっと……」 「君が高梨の友達?」  千秋が答えようとすると、遮ってくる英司。完璧すぎる笑顔が逆に怖い。 「あっ、はい!同じ大学の友達で……。えっと、お兄さんとかっすか?」 「お兄さん……?」  英司の完璧な笑顔がピクっと一瞬歪んだのだから、拓也も流石にその笑顔が偽物だと気づいたのだろう、「千秋っ、俺なんかやばいこと言った?」と青ざめている。  まずい、これ以上何か余計なことを言われる前に俺がなんとかしなくちゃ。 「えっと……さっきも言った通り拓也は俺の友達です。拓也、この人は俺の中学時代の先輩で、さっき偶然会ったんだ」  重要なところは全部省いたけど、嘘は言っていない。 「柳瀬英司です」 「俺、鈴木拓也です。先輩だったんですね!まあたしかに、普通兄貴だったら苗字で呼ばねーか……」  拓也が納得するように数回頷く。 「……まあ、そうだな。ところで、高梨がお世話になってるようだけど、明日俺が……」 「わ、わー!」  いきなり何言おうとしてんだ!  英司の言葉をわざとらしく遮ると、不満げな目線が送られてくる。千秋は千秋で「これ以上余計なこと言うな」という目線で返したが、意図が伝わったかどうかはわからない。
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