2. 流されるな

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 ──昨日の夜。英司が帰った後、千秋が拓也に「そろそろ自分の家に戻る」ということ告げた時のことである。 「じゃあ、もう新しい家見つかったのか?」 「いや、見つかってないけど……。これ以上はさすがに迷惑だし」 「それは別にいいけど……。でも実はさっきコンビニの帰りにアパートの大家に会ってさ!友達が部屋探してるって言ったら、もう少しで空く部屋があるらしくて、お前に優先で貸してくれるって言ってるんだよ」 「え?」  俺、大家さんに信頼されてるからな〜と少し自慢げな拓也。 「ほら、これ物件資料。まあ間取りはこの部屋とあんま変わらねーけどな。まだ退去済んでないから、それからになるらしいけど」  ちらっと見てみると、間取りは本当に拓也の部屋と同じだ。違うことといえば、また角部屋ってことだ。家賃も千秋の予算以内。正直言って、条件はこれ以上ないほどいい。  英司とは明日家に帰ることを約束はしたが、引っ越ししないとは言ってない。というか、引っ越しを考えてることすら言ってなかった。だから、俺は不義理にはならないはずだ。となれば、すぐにでも決めて、拓也にしつこいほど感謝して、早めにその大家さんに連絡して……。  でも………。  なぜか、さっきの路地でのことが思い出される。……なんで急に、あの人のことが。  悩ましげに寄せられた眉間、切実な声が千秋を呼ぶ。  いや、ただあんな感じの英司が珍しいから、だから気にしてしまうだけなんだ。本当、最近の俺は全然俺らしくない。俺の意志はそんなに弱くなかったはずだ。  だから、意志の強い俺は、最初から望みに望みまくっていたこのチャンスを逃すわけがない。よし。
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