2. 流されるな

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 ──それで、どうして俺は未だ何もせず、家でこうしているのか。  掃除し綺麗になった床に座り込んで、テーブルに置かれた物件資料とにらめっこしてから早数十分。  せっかく拓也と大家さんのご厚意でこの話があるのだから、受けるにしても受けないにしても、できる限り早めに連絡しなければいけないのに。 「はぁ……」  ああ、もう18時か。夢中で色々しているうちに、結構時間が経っていたらしい。今日は拓也と軽く朝食をとった以外何も食べていないから、かなりお腹が空いている。そろそろ飯つくらなきゃな。  冷蔵庫を覗いてみると、……忘れていた、1週間家に帰ってないのだから当然だが、何も入っていなかった。今からスーパーに買い物行くか、コンビニ行くか、それとも出前でもとるか。  スマートフォンを立ち上げると、出前アプリを開いて一覧を見てみる。やっぱり出前って高いよな……。もし引越しを視野に入れるなら、少しでも節約しておくべきだろう。  途中で見るのをやめて、スマホをポケットにしまう。財布とエコバックをカバンから取り出すと、手に持って千秋は玄関に向かった。どうせ近くだし、こんなもんだろう、靴を穿いて玄関のドアを開けると、コツンと途中で何かにぶつかった。 「あ、高梨?言いつけ通り、ちゃんと戻ってきたんだな」  わずかに開いたドアの隙間から、ひょこりと顔を覗かせたのは英司だった。いると思わなかったし、いきなり出てきたものだから、千秋は思わず声を上げそうになる。 「び、びっくりさせないでくださいよ……!」  本当、心臓に悪い。なんでこう、この人はいつも突然なんだ。俺は冷静を保ちたいのに、こうも急がすぎると心の準備ってものが……。
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