2. 流されるな

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 結局、千秋は英司を家に入れてしまった。  大好物でも普段自分で買うには躊躇うものばかりだったせいか、余計判断力が鈍ったのだ。  一応、本当にいいんですかと聞いたが、 「いいに決まってんだろ。お前のために買ったんだし」  と、なんでもないように言われてしまって、千秋は黙った。  俺は食べ物に釣られただけ、そう、これはちょうど空腹時にご飯が自分からやって来たせいであって。……それはそれでどうなのかという話だが。  英司は慣れたように部屋の中に入っていくと、一番奥にある部屋に入る前に、途中にあるキッチンの前で止まった。 「ケーキ冷蔵庫に入れたいんだけど」 「あ、冷蔵庫、俺入れます」  ケーキの箱を受け取ると、すぐ横にある冷蔵庫にしまった。キッチン台の上に袋を置いた英司は、することがないのかそのまま千秋の様子を見ている。どこに何があるかわからないだろうし、英司がここに立っている必要はない。 「あの、……柳瀬さんは座っててください」  千秋は英司にそう促すと、客人に対するごく普通のことを言ったはずなのに、なんだか変な感じがした。  そんな千秋に英司はわずかに目を見開くと、少し嬉しそうに口角を上げた。 「じゃあ、お言葉に甘えて」  …そうだ。なんか俺、ご飯が絡んでるにしても柳瀬さんを受け入れちゃってる感じになってる。でも聞かれてもないのに「これは腹が減ってたせいなんで!」と抗議するわけにもいかず、と結局口をつぐんだ千秋は、むずがゆい気持ちになった。  本当の本当に、飯に釣られただけだからな……!せめて心の中でだけでも念を押しておく。  とりあえずお寿司は今日中に食べなければいけないので、それと一緒に箸と醤油も並べる。その様子をテーブルの前、ベッドに寄りかかる英司がじーっと見てきたので、間が悪くなってテレビを付けた。  そういえば、紙袋で見えなかったが、ペットボトルのお茶も英司は買ってきたらしい。しかも二リットル。しかし、今日帰る前に買ったお茶はすでに飲み干しまっていたので、正直助かったのは確かだ。新たに作ってもいなかったのだ。  というか、これ全部だと相当重かっただろうな…。もし、千秋が約束を反故にして帰ってこなかったらどうするつもりだったのだろうか。この量は、寿司だけでも一人で食べきるのは難しいだろう。  千秋が絶対に帰ってくると信じていたのか……いや、そこを深く考えるのはやめておくことにする。
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