2. 流されるな

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 千秋はお茶を二人分注いだ後、そのコップをテーブルに置くと、千秋も向かいに座った。 「ありがとな。じゃあ食うか。いただきます」 「……いただきます」  千秋の一番好きなネタはサーモンだ。英司が先に食べ始めるのを待ってから、千秋はおそるおそる箸を伸ばす。正直、腹は限界だった。一口食べたら何かやばいこと要求されるとか、ないよな?今更になってそんな考えが過ぎる。  いや、ここまで来ておいて引き返せるか。要求でも何でも受けてやろうじゃないか。微妙にキレ気味に、サーモンを口にすると、英司の様子をちらっと窺ってみる。 「うまいか?」  いるのは、かなりご機嫌な彼だけだった。どうやら何もなさそうだ。寿司美味しすぎるし……幸せとはこのことか。 「おいしいです……」  頬が緩んでいることに気づいてぱっと顔を背けると、千秋はもごもごと答えた。英司は満足そうにするが、その顔で今日はずっといるつもりなんだろうか、少し落ち着かない。  極上セットだからか、頻繁には食べられない大トロ、中トロまである。あまりのご馳走に「うぅ……」と唸る千秋に、食え食え、と言う英司。  それを皮切りに、がっついてると思われない程度に、千秋は次から次へと口に運んでいくのだった。 「───お前、食べきれないって言ってたのに、焼肉丼まで完食したじゃねえか」 「う……」  空になった容器たちを見て、千秋は罰が悪そうに目をそらした。  そうなのだ。寿司を食べている最中に「焼肉丼は?」と聞かれたのだが、普通に考えた場合食べきれないと思ったので、持ち帰ってもらおうと考えていたのだ。せっかくなのに申し訳ないけど、今日食べずにもらうだけなんてできないし、プレミアム焼肉丼なら翌日でもおいしく食べることができる。  しかし…… 「おっ前かわいいなぁ。『やっぱりプレミアム焼肉丼も食べていいですか…?』ってすげえ悪そうに。どんだけ腹減ってたんだよ」 「なっ……!」  英司は珍しくケラケラと笑っている。千秋は顔を赤くした。かわいいって…絶対馬鹿にしてるだろ。
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