2. 流されるな

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 ダメだダメだ。また言い合いになってしまう。何であれ、今日はこうして英司に良くされている。俺は分別のつく男だからな……と自分に言い聞かせる。 「話は変わりますけど、今日はご飯とかケーキ、あとお菓子も…本当にありがとうございました。あの、俺も払うんで、いくらですか?」  流石にこの量、相当値段はいってるはずだ。そうでなくても、千秋はこうするつもりだったが。  なにせ今日は誕生日でもなんでもない普通の日だし、本当のタダ飯(しかも全部大好物)食らいになるわけにはいかない。 「いらねえよそんなの。俺が勝手にやったことだしな」 「いや、でも」 「じゃあ、この前俺が腹減りすぎて倒れたとき飯食わせてくれただろ」  今思いついたように言う英司。 「今日のとは値段も量もクオリティも全然違います」 「ええ?高梨の手料理ってだけで十分すぎだろ。それに、俺は倒れたところを助けられたんだぞ。あとめちゃくちゃうまかったしな」  助けたは大袈裟すぎだし、あの時のは誰でも作れるような野菜炒めとスープだったのに……。そう言われると、逆に恥ずかしくなる。  千秋が何か反発の言葉を考えていると、頬杖をつく英司が何かいいことを思いついたかのように笑った。 「じゃあ、今日約束守れたご褒美もプラスで」 「はあ?子どもじゃないんですよ」 「ちげえよ。俺が一方的にさせた約束だったからな」  かなり一方的だったの、わかってたのか。  でもそれを承諾したのも千秋である。それを訴えると「お前には約束しても得はないけど、俺にはあるだろ」と意味のわからないことを言われた。 「得って。柳瀬さんこそあるんですか?」 「お前を他の男の家にいさせなくて済むっていう得」  少し低い声で答えた英司の表情は、口角は上がったままだが、どこか冷たさを含んでいる。  ……そういうことか。この人は俺が拓也の家に留まることが不満なようだった。ただの友達なのに、そう言っても納得しないのだから仕方ない。 「……じゃあすみません、今日はご馳走になってもいいですか?」  これ以上この話題をは広げまいと、半ばそれに押し切られる形で千秋は折れることにした。結局何を言っても払わせてくれなさそうなのも、薄々感じていた。  満足したように、ああ、と英司が頷く。 「ありがとうございます。ごちそうさまでした」  ちょうどケーキも食べ終わり、フォークを置く。 「美味しかった?抹茶タルト」 「はい。昔から好きなやつだったので」  嘘偽りのなく言うと、英司は困ったように少し眉を下げて笑った。予想していた反応と違い、少し引っかかる。なんだ、何か変なことでも言ったか?
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