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ぽかんとしている英司が何も話さないので、間が悪くなり「お、俺ができることだけですけどね!」と慌てて付け加える。
「千秋……いきなりどうしたんだよ」
英司は自分から話に乗って来たことに驚いているようだった。
「お金を払わせてもらえないなら、それくらいしていいと思っただけです。それもいらないって言うなら俺は別に……」
「待て高梨。いらないわけがないだろ」
引き止めるように、英司は先に告げる。
もし無茶なことを要求されたら、断れば良い。さあ、何がくる。掃除か、パシリか、それとも頻繁に飯を作る約束でもさせられるか。いや、それくらいならまだマシだろう。
「お前にできないこと以外なら、何でもいいのか?」
「まあ、基本的には……」
できないの反対はできるだからな。できることはできるに決まっている……と、千秋は当たり前なことを考える。
「なら、お前のこと、満足するまで撫でさせて」
「撫でる?」
こうは言っちゃなんだが、そんなことでいいのか。もっと面倒臭い要望をぶつけてくるかと思ったが、そんなのただじっとしていればいいだけだ。たしかに、黙って撫でさせてやるというのだから、少し、いやかなり屈辱的で恥ずかしいだけで。
「そんなことでいいんですか?」
念の為もう一度確認しておく。
「俺がしたいことだし、いいだろ?」
「柳瀬さんがいいなら、いいですけど……」
少し腑に落ちない部分もあったが、とんでもない要求ではないし、本人が言うなら受け入れるべきだろう。
何が楽しいのかわからないけど、もしかしたらペット的な癒しを求めているのかもしれない。もしそうなら、希望に添えなさそうだが。
英司が「ベッド座っていい?」と聞いてきた。この部屋にはソファがなく、テーブルの横には座布団が置いてあるだけだから、ずっと座っていて体が痛いのかもしれない。
いいですよ、と答えると、そのまま英司はすぐ後ろのベッドに腰掛けた。
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