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「でも撫でられるの好きだろ?」
「はっ、好きじゃないですけど?」
「本当かな」
英司が後ろから顔を覗かせながら、手は動かしつつ煽るように言う。
千秋も半分振り返って睨んでやると、今度は突然、もう片方の手が顎下に触れた。
「ひゃうっ!?」
「……いい反応だな」
油断していたせいか、首近くだったせいか、自分でも驚く声を出してしまった。
理解の追いつかない千秋をよそに、英司の指は猫をかわいがる時のように、こしょこしょと千秋の喉元を擽り始める。
な、なんだこれっ……?
意味がわからなくて、さっき抵抗しようとして挙げられた両手が行き場を失う。
「うりうり、かわいいやつめ」
「や、やめっ」
「なんて?」
「これ撫でるじゃな……っ」
「喉を撫でてるだろ」
そんなの屁理屈だ。たしかに、どこを撫でるかは指定していなかったけど、こんなの絶対ずるだ。
なのに、そう思って言い返そうとするも、擽られる喉元に意識がどうしても行ってしまい、なんだか上手く喋れない。
「千秋、気持ちよさそー……」
「ぐ、うぅ……」
引き気味だった顎は、撫でやすいところまで自然と上がり、猫じゃないのに唸りそうになる。こんなの初めてで、感覚に追いつくだけでも精一杯だった。
英司は少し興奮した様子で、千秋を眺めている。
頭に置いてあった手が頬にまで滑り落ちてくると、そのままスリスリと撫でられる。ちょうどいい温度の手。これも、気持ちいい……。
「ふ……、……あ」
ふと喉元から手が離れて、思わず声を漏らすと、
「また今度してやるから」
と千秋の心を読んだように言われたが、別に望んでないですと言おうとして、なぜか慈愛の表情で微笑まれる。その上、また何回か頬を撫でられ、千秋は黙ってしまった。
今度こそお終いか……と、少し残念に思っているのは自覚したくないが、そう思った時、英司の手が、今度はお腹に触れた。
あろうことか、服をまくろうとしてくるのだから、千秋は急いで止める。
「ちょっ、なにしてんですか!」
「お腹。これで最後にするから。な?」
「はあ?そんなところ触って何をっ……ヒッ」
捲るのは諦めたが、裾から潜り込んできた手が、直に千秋の腹に触れる。そして、さわさわと怪しく動き出す。
「ちょっ、これは絶対アウト!」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ」
「は、はぁ?」
そんな顔しといて言うことが変態オヤジだ。
まあ、でも喉を撫でられるのよりかは、ただくすぐったいだけで大した刺激はない。仕方ないから、英司が飽きるのを待とう。
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