2. 流されるな

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「でも撫でられるの好きだろ?」 「はっ、好きじゃないですけど?」 「本当かな」  英司が後ろから顔を覗かせながら、手は動かしつつ煽るように言う。  千秋も半分振り返って睨んでやると、今度は突然、もう片方の手が顎下に触れた。 「ひゃうっ!?」 「……いい反応だな」  油断していたせいか、首近くだったせいか、自分でも驚く声を出してしまった。  理解の追いつかない千秋をよそに、英司の指は猫をかわいがる時のように、こしょこしょと千秋の喉元を擽り始める。  な、なんだこれっ……?  意味がわからなくて、さっき抵抗しようとして挙げられた両手が行き場を失う。 「うりうり、かわいいやつめ」 「や、やめっ」 「なんて?」 「これ撫でるじゃな……っ」 「喉を撫でてるだろ」  そんなの屁理屈だ。たしかに、どこを撫でるかは指定していなかったけど、こんなの絶対ずるだ。  なのに、そう思って言い返そうとするも、擽られる喉元に意識がどうしても行ってしまい、なんだか上手く喋れない。 「千秋、気持ちよさそー……」 「ぐ、うぅ……」  引き気味だった顎は、撫でやすいところまで自然と上がり、猫じゃないのに唸りそうになる。こんなの初めてで、感覚に追いつくだけでも精一杯だった。  英司は少し興奮した様子で、千秋を眺めている。  頭に置いてあった手が頬にまで滑り落ちてくると、そのままスリスリと撫でられる。ちょうどいい温度の手。これも、気持ちいい……。 「ふ……、……あ」  ふと喉元から手が離れて、思わず声を漏らすと、   「また今度してやるから」  と千秋の心を読んだように言われたが、別に望んでないですと言おうとして、なぜか慈愛の表情で微笑まれる。その上、また何回か頬を撫でられ、千秋は黙ってしまった。  今度こそお終いか……と、少し残念に思っているのは自覚したくないが、そう思った時、英司の手が、今度はお腹に触れた。  あろうことか、服をまくろうとしてくるのだから、千秋は急いで止める。 「ちょっ、なにしてんですか!」 「お腹。これで最後にするから。な?」 「はあ?そんなところ触って何をっ……ヒッ」  捲るのは諦めたが、裾から潜り込んできた手が、直に千秋の腹に触れる。そして、さわさわと怪しく動き出す。 「ちょっ、これは絶対アウト!」 「ちょっとだけ、ちょっとだけ」 「は、はぁ?」  そんな顔しといて言うことが変態オヤジだ。  まあ、でも喉を撫でられるのよりかは、ただくすぐったいだけで大した刺激はない。仕方ないから、英司が飽きるのを待とう。
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