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3. つながりを求めた
昼ごろ、千秋はいつものように、拓也と大学の食堂で昼食をとっていた。
「ああ、もういいって。千秋気にしすぎ」
「でも、せっかく……」
うんざりした様子の拓也が、呆れたように肩をすくめる。千秋は、こういうことについては、とことんばつ悪く思ってしまう質なのだから仕方ない。
というのも、高梨千秋は先日、目的であったはずの新住居契約の提案を断ってしまうなどという愚行に走ってしまった。
脳内の自分はぐったりしている。
英司が大量の食べ物をぶら下げて家にやってきた日、あの脅迫まがいなことを突きつけられ、すぐ翌日に拓也とその大家に電話で連絡を入れた。正直すぐ新しい入居者は見つかるからか大家は気にしていないようだったが、千秋は特に、拓也に対して申し訳なく感じていた。
それは1週間も居座った挙句、目的を達成するどころか、こちらの勝手な事情で厚意を無駄にしてしまったからだ。
だから休日を挟み今日、千秋は直接こうして改めて謝っているというわけなのである。
「俺は久しぶりにあったかくてうまい手料理食えたし。なんなら何もなくても居てくれていいってくらいなのに」
「……ありがとな、拓也」
そう言ってくれている拓也にこれ以上はしつこいと思ったので、謝るのをやめて、礼を言うことにした。
「そんで、肝心の隣人トラブルはどうなったんだよ?」
「え。……いや、それは、その」
「ん?」
「お、お互い譲歩しましょう……みたいな感じで」
しどろもどろ言う千秋を拓也はじーっと見てきたかと思えば、「ふーん」と納得したように頷いた。嘘がばれたかと思って少し焦った。
そういえば、千秋が言いたくなさそうにしていたからなのか、隣人トラブル(実際そうとは言ってないが)の原因について拓也は詮索してこなかった。
わかってはいたが、彼は空気の読めないやつではないのだ。
「ま、千秋がそれでいいならいいけど。もしなんかされたら言えよ?俺が直接殴り込みに行ってやるから」
「いや、それじゃ本当の事件になっちゃうだろ。あ、だからな、もう大丈夫だ。ありがとう、拓也」
拓也は普段は女好きのチャラ男だが、こう見えて案外面倒見のいい男で、小心者かと思えば思い切ったこともする。殴り込みも頼まれたら本当にやってしまいそうだ。
「そういや、合コン行く約束しただろ。今週土曜……行くぞ」
このいい話を誰にも聞かれまいと声を顰め、ニヤニヤしながら言う拓也。心躍るのを隠せないのか「く〜!やっとこの日が来た!」と大袈裟なくらいに喜んでいる。
まあ、正直言って合コンは苦手だが、これも拓也との約束を果たすためと思えば全然、安いくらいだろう。
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