3. つながりを求めた

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「最初にひどいことしたのは柳瀬さんの方じゃないですか」 「あ?」 「俺が中学の時、柳瀬さんから離れたのは柳瀬さんを許せないと思ったからです。俺だって、本気で好きだったのにっ、あんたがそれを裏切ったんでしょう!」 「おい、なんのこと言ってんだよ」  急な興奮も相まって、じわっと涙が滲んでくる。でも本当に泣くわけにはいかない。こらえながらも今まで隠してきたことをぶちまける。 「柳瀬さんは俺が知ってることを知らないでしょうけど、二股してたの、俺知ってるんでっ……!」    久しぶりにこんなに叫んでるからか、息が荒い。 「は……ちょっと待て、俺そんな」  何か言いかけた時、ちょうど英司の家のインターホンが鳴る。 「くそ、悪いちょっと出てくる」  インターホンに遮られ、そう言うと玄関に向かっていく。  正直、来客は助かった。このままだと本当にひどいことを言いそうだった。  千秋は、長くため息をつく。  ……ついに言ってしまったのか、俺。思い切り言ってやればスッキリするのではないかとも思っていたが、全然そんなことない。  言ってしまったということになぜか現実味がなくて、なんなら後味が悪すぎるくらいだ。  少し落ち着いたところで、来客の相手をしているだろう英司が戻ってきたら、そのまま家に戻ることを考える。そして、これからどうするか、また一から考え直す。  しかし英司がなかなか戻ってこないので、少し様子を見ようと部屋の扉を開けようとしたら、触れる前にそれは開いた。 「あれ、また会った」 「えっ」  また見たことのある顔。恵理子だった。 「おい恵理子、勝手に入るなよ」 「はあ?今さらでしょ」  その会話から伺える、仲の良さ。気の知れた友人のようにも見えるし、恋人のようにも見える。  こんな時間に、しかも「今さら」ということは、頻繁に家を出入りさせているということか。  やっぱり、二人は付き合ってるんじゃないだろうか。恵理子も英司と同じで、今日あのキャンパスから出てきた。同じ学部同士なら説明がつく。  なにより、千秋の目には二人がお似合いに見えた。  ……ダメだ、これ以上考えると他人のことを言えなくなる。 「俺、帰ります」  二人の間をすり抜けて、早歩きで玄関に向かう。 「おい、待てって高梨!」  英司が後ろから追いかけてきたが、振り切って、自分の家に逃げ込むようにしてすぐ鍵をかける。  ドアの外から何度も名前を呼ばれた。しかし、それに応えることはなかった。
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