3. つながりを求めた

9/27
前へ
/152ページ
次へ
「千秋ー……お前、大丈夫か?」  季節は夏、7月に入った。  カフェで課題をしていると、前に座る拓也が心配そうに覗き込んできた。 「え……何が?」 「いや、何がって聞かれるとアレなんだけど……なんか疲れてないか」 「最近、バイトも課題も忙しいからかも」  ついでに、試験の勉強もある。千秋はやるべきことはしっかりやるタイプだ。どれも手を抜くことはできない。  しかし、拓也が心配なのはそこじゃなかったらしい。 「まじで、なんかあったら言えよ。無理にとは言わねーけど」 「……ありがとう、拓也」  拓也の優しさが沁みる。  でも一度巻き込んでしまった拓也に、また隣人トラブルもどきとは言い難い。相談だけだったとしても、拓也を頼ることはできないのだ。  英司に色々ぶちまけてしまったあの日以来、千秋は家には帰りつつも、会わないよう本気で徹底していた。次会ったとして何を話せばいいのだ。というか、あんなに言った後で顔を合わせるなんて無理に決まってる。  英司は相変わらずの生活スタイルで、真夜中や早朝に訪れるようなことはしないから、会うことは必然となくなった。  隣にいるのに、変な感じだ。  無心でキーボードを打ち続けレポートを仕上げると、拓也が「はやっ」と驚いた顔をする。  今日はこのままバイトだ。最近はあそこでも前みたいにバッタリ出くわさないように、目立たない別の道を通っている。少し遠回りだが、仕方ない。 「ごめん拓也、そろそろバイト」 「お、今日も?詰め込んでるな」 「まあな」  家にいるのが嫌だからだ。いつ恵理子という女の人がやってくるかわからない。実際、恵理子が悪いことなど一つもないが、悔しいことに二人を見ているとモヤモヤしてしまうのが現状だ。    それが何か、わかっている。でもだからって何かできるわけでもない。できるわけがない。  だから、千秋はまた逃げることにしたのだ。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1327人が本棚に入れています
本棚に追加