3. つながりを求めた

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 バイトが終わって帰り道。帰りにコンビニに寄る、これが最近の日課になっていた。  自分で言うのもなんだが、俺は普段、かなり規則正しい生活をしていると思う。  しかし、「今日はコンビニでいいや」というところから始まり、最近はずっとコンビニを利用している。コンビニの食べ物っておいしいんだよな…と改めて思ったわけだ。  でも最近、寝つきも悪いし、体もなんだか重い。  普段しっかりしている千秋がこうまでなったのも、やはりあの全てをぶちまけたあの日が関係していた。  ただ英司に不満や文句があってこうなっているわけではない。  それよりも、自分が心に秘めていたことをああも簡単に、たとえ英司相手であっても、怒りに任せて口走ってしまったことにショックを受けていたようだ。  いや、自分でも意味がわからない。これはあとで気づいたことなのだ。  もちろん、「許さない」と長年根に持っていたんだと思われるのが嫌なのもある。  しかし、あの「許さない」と密かに勝手に思うことは英司と自分をつなげる、たった一つの手段だった。  それを本人に言ってしまうと、謝るなりなんなりと、アクションを取られてしまう。そしたら、「つながり」が消える。  でも「好き」や「恨み」では繋がれない、それで繋がればまた傷ついてしまう、いつか消えてしまう。  ここ五年、たった一つの出来事でこんなに拗らせていたのかと、それに気づいてしまった千秋は自分にドン引きした。俺ってもしかして、結構気持ち悪いやつだったのか。  きっとあの時はそれだけ英司のことが好きで、よくある二股とか浮気だとしても忘れることのできないものすごいトラウマとして、そのトラウマ感情が先行して残ってて、でも普通にずっと怒ってもいたわけで、さらに「許さない」ことで利用した。  ……認めよう。千秋は英司を完全に忘れたくなかった。でもほとんど忘れたかった。  もういっそ、俺は自分をここまでおかしくさせる彼のことが嫌いなんだ。そう思っていたこともある。今でも思っているけど、やっぱりなんか負けた気分だ。  でも誰かが言っていたような気がする。好きと嫌いは紙一重だって。いや、聞き間違いもしれない、ただの対義語だ。  しかし、英司が目の前に再び現れてから、そのバランスは崩れてしまった。  どんどん近づいてくるし、逃げもできない、俺を困らせる。でも、それがなぜか嬉しい。でも、悔しい。このたった数ヶ月、ずっとそれの繰り返しだ。  でも、柳瀬さんのこと怒らせちゃったし、どっちにしろもうだめかな。  頭がふわふわとする。地面の硬さを感じない。  なんか今日、俺おかしいな……今まで、ここまでは考えたことなんてなかったのに。  俺、エレベーター乗ったっけ?記憶ないな。  ああ、でも柳瀬さんの家だ。  いつも帰る時に前を通らなきゃいけないから、緊張するんだよな。  柳瀬さん、今日もまだ帰ってきてないのかな……
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