1328人が本棚に入れています
本棚に追加
英司は少し迷った素振りをしてから、話を切り出した。
「あの日、お前……二股がどうのこうのって言ってただろ」
英司の言葉に、朝食を食べる手が止まる。
そのことかもしれない、と思ってはいたのに、いざとなるとヒヤリと汗が背を伝った。
なんて言われるんだろうか。「バレてると思わなかった」か、「あの時はごめん」か。
どっちにしろ、英司がそれに触れるなら、もう終わり……
「俺、二股なんてしてねえけど」
……………………………………………は?
なんの偽りもなさそうな瞳できっぱり言うので、千秋はしばらく思考停止した。
いや、もしかして、ごまかそうとしてる?
「でも、じゃあ浮気……」
「してねえ」
即答かよ……。迷いがなさすぎて逆に怪しいくらいだ。
でも、たしかに、このままうやむやにしてしまった方がいいのかもしれない。元々、千秋は言うつもりもなかったのだから。
そんな考えに変わってきたところで、英司が次の言葉を投げかけてくる。
「で、高梨はなんでそんな勘違いすることになったわけ」
「勘違いって」
「まごうことなき勘違いだろ」
自らここまで突っ込んでくるなんて、どうバレたのか探っているか、本当に嘘をついていないかどちらかだ。
言うべきか、言わぬべきか。千秋は頭をフル回転させる。
間を埋めるように、朝食の最後の一口を口に入れた。
なかなか話出さない千秋を、英司が「高梨」と静かに、でも強めな口調で呼ぶ。
千秋は、ふう、と小さく息をついた。
英司の選択肢には「言わせる」しかないらしい。千秋もすでに口走ってしまっている以上、逃げることはできない。
千秋は、もうどうにでもなれの精神で、一部始終を話すことにしたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!