3. つながりを求めた

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「なるほどな」  全てを話し終えた後、無表情に英司は言った。  卒業式の日、英司と別の男子生徒が抱き合ってキスしていたのを見たこと、その上「好きだ」と言っていたこと。  朝食はすでに二人とも食べて終わっていて、空の容器がテーブルに置かれているだけだ。  なるほどな……って、それはどういう感情なんだ。読めない表情に千秋は眉を顰める。  もう全部言った、言ったぞ。これで、この五年間、秘めていたことを残らず全て吐き出した。  言いようのない不安感が襲ってくる。もう後には何もないのだから、当然だ。  英司が口を開く。それまでがとても長い時間のように感じられた。 「先に言っておく。たしかに、それは本当のことだ」 「……まあ、そりゃこの目で見たんで」  少し棘のある返事をすると、「まあ聞けって」と英司が言う。なぜ俺が宥められなきゃいけないんだ。 「本当のことではあるけど、浮気とか二股とかじゃないからな」 「じゃあ、何だっていうんですか?」 「されたんだよ、いきなり勝手に」  それは、千秋も何度も考えたことだ。でもあんなにしっかり抱いてキスしてたんだぞ。 「信じてない顔だな」 「いきなり勝手にされたにしては、受け入れてる感じでした」  英司が一瞬何か考え込む。 「でも、お前がそう思うのも無理はないよな。……悪かった」  一度話を中断して謝ると、改めて千秋の誤解を解くために話し始めた。 「まずあいつは同じクラスの友達だったんだよ。結構大人しいやつで、あの日最後に話したいからって校舎裏に連れてかれたんだ。で、着くなり告白されたけど、でも俺はすぐに断った」  知らなかった事実がするすると出てきて、千秋は混乱する。たしかに千秋の記憶は自分が見た分しかないから、初耳なのは当たり前だ。 「お前が好きだったからな」 「っ……」  完全なる不意打ちに胸が高鳴る。今、全然心の準備ができていなかった。…いや、いつもできていないけど。
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