3. つながりを求めた

18/27
前へ
/152ページ
次へ
「でもお前、そのことが気になってたんだな」 「気になってたわけじゃ」  少し嬉々として英司が言った。ああ、絶対勘違いしてる……。  そんなふうに聞こえるのも無理はないが、それはすでに気になるどころではないというのに。  五年間、思い出すのはいつもその場面と、その時のショックな感情なのだ。自らこの年季の入ったトラウマに手をつけようとしている俺のこの気持ち、柳瀬さんにわかるわけがない。 「まあまあ。説明させて、思い出したから」  なんて都合のいい思い出し方だ。 「あいつ、お前と同じような体型とか雰囲気だっただろ。いきなりだったからとっさにお前にするみたいになっちまって。しかも、そんなにお前が好きなのかって聞かれてたから、好きだってそのまま答えたんだよ」   我に返ってすぐ離したけどな、と英司は付け加える。  つまり……  とっさに倒れてきたのを、俺と似た体型だっただったから俺にするみたいに抱きとめてしまい、キスまでされて、『その子のこと本気で好きなんだ』の質問にそのまま答えたと。  千秋はその後すぐに逃げたので、たしかに離れたところは見てないが、それがもし、本当なら……。  嘘にしてはリアルだし、本当にしては上手くいきすぎている。でも辻褄は合っている。というのが全てを聞いた千秋の素の感想だった。  普通同じような体型と雰囲気だからってそんなこと……。横に座る英司をちらりと見る。……いや、この人ならやりかねない……。  というか、俺はそんなふわっとした感じのことを五年も気にしていたというのか。途端に絶望的な気持ちになった。 「高梨、そういうことだ。納得してくれたか?」 「納得っていうか……それ全部本当の話ですか?」 「当たり前だ」  様子から見るに、その話自体は多分、本当なんだろう。証拠なんか無くても、それはわかる。  でも、なんか引っかかる。この五年で相当疑り深くなったからそれもあるけど、もっと、なんか。  ……ああ、もしかしてこの人の態度か。淡々としすぎているからだ。真剣だけどどこか軽い、その妙な感じが千秋は引っかかるのだ。  中学の頃は浮気なんて考えもしなかった純粋無垢な子どもだったから、英司が軽いなんて思わなかったが、今は違う。こう、無駄に探ってしまう。  求めすぎているのだろうか。本当のことを言ってるのに信じられないなんて、俺って本当救いようがない。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1328人が本棚に入れています
本棚に追加